Excalibur

 ポーン。高速エレベータが地下深いジオフロントに到着した様だ。
「さ、降りよっ。戦略的撤退の続きだっ」
「……あぁ……」
 釈然としない面持ちのジュンを残し、カミュはケージを後にする。
「早くっ。グズグズしないっ!」
「……あぁ……」
 ケージから一歩降り立ったそこには見慣れた景色が広がっていた。
 ゴォォオオ――……。
 摩天楼を彷彿とさせる高層建築物間を磁気浮上式ビークルが奔る。
 縦横に幾何学模様を描くバイパス空間を流線型の車両群が翔ける。
「グランドラ地下要塞・ジオフロントへよーこそっ」
 ピシッと畏まると、カミュはあざとい挙措で敬礼ポーズをキメた。
 黄昏時の夕陽を浴びた姿は、マイクロミニにタンクトップの軽装。
 露出は高いものの、お洒落の一環として流行りなのかもしれない。
「……前にも聞いたよ、その台詞」
「オフレコで。お願いしますっ!」
「……はいはい」
 笑い目で慇懃に応ずるカミュのお調子者ぶりは相変わらずの様だ。
「冗談はさておき、避難生活どーしよっかなぁー」
「……」
 ぴゅーと口笛を吹いて気を紛らわせるカミュに、疑問をぶつける。
「俺の神霊力回収を邪魔したのは、何? 無駄死にさせない為?」
「だってさぁ。ぁんたの闇の神霊力じゃ、相克しちゃうっしょ?」
「……えッ!?」
 相克――。うっかり忘れていた。堕天した自分の神霊力は、闇だ。
 光の神霊力とは拮抗する。まともに衝突して勝てないのなら――。
「地下に逃げたってさ、神霊力の波動はマントル貫通するからね」
 神霊力(オーラ)は元来物質ではない為、根本的に貫通性が高い。
 光属性のカミュは兎も角、闇属性のジュンは影響を受けてしまう。
「逃げ場はない。……そういう事か。それでお前は、俺から……」
「足手纏いな神霊力は、一旦棚上げにしといて問題ないっしょ?」
「……お前、以外と賢いよな……」
「一言余計だっつーの!」
「……?」
 首を傾げるジュン。むくれるカミュの膨れっ面が可愛いく感じる。
 どうかしてる――。可笑しくて、密かに心の中で失笑するジュン。



 しかし、神霊力のない今の状態で連中と渡り合えるとは思えない。
 智謀にかけてはラファエルことサンダーに勝てない事を承知済み。
 神霊力の総量は戦闘特化型のウリエルことハヤカワに圧倒される。
 奇術と計略に長けたガブリエルに、ジェラルドも翻弄されていた。
「連中が相手となると、……地上は……エデンは……」
「失楽園って感じ? 災害でもう住めなくなるっしょ」
「…………」
 あまつさえ、人類が侵してきた環境破壊や自然破壊は目に余った。
 提唱されてきた資本主義社会のプロバガンダの下に生態系は衰弱。
 経済を優先する余り、本来地球が備えていた自浄作用が汚された。
 農薬、自然伐採や排ガスに依る温室効果ガスの充満に伴う温暖化。
「……俺は、間違った事を、……していないよな?」
「ぁんたはバカがつくお人好しだってジェラルドが言ってたよ?」
「……愚かなのは俺の方かもしれないな……」
 人類の意識変革を期待して、陰で見守って来たつもりではあった。
 だが――、それすらもエゴであり、傲慢だったというのだろうか。
 だとしても――。見捨てる事は、ジュン自身のポリシーに反した。
「ほら。ビークルが到着するよ?」
「……あぁ……」
 過ぎた真似をしたろうか――。半ば放心の体で空返事するジュン。
 セラフの腹の内は読めている。が、――相手取るには酷な連中だ。
 潔く断罪されてしまった方が、むしろ気分的にはよほど楽だろう。
「あの連中とやり合う位なら、……いっそ、一思いに……ッ」
「んー? そしたらぁんたサタン化しちゃうけど、いーの?」
「……いや、……ちょっと待て、それは困る……」
 即答した。カミュのエグい指摘にギョッとして肝を冷やすジュン。