天体衝突の衝撃波が地表を焦土化させ、粉塵が地上を覆いつくす。
 気候変動に続き、やがて暗黒の闇と氷点下の凍土に覆われる世界。
 巨大飛行物体の向こう側に、何某かの思惑が垣間見えた気がした。
「……ぅ、ぐ……ッ」
 裏切られたかの様な失望感が、ジュンの胸中を抉る様に傷つける。
 大昔、天界で共に育ち、寵愛を分かち合った面々の気配を感じた。
「……ぜぇ、ぜぇ……ッ」
 全身真っ赤な装甲に身を包んだ戦闘型サイボーグ少女のウリエル。
 智謀に長けた銀髪男ラファエルに、桃色の髪の奇術師ガブリエル。
 自分を謀った相手は、ミカエルを除く七大天使(セラフ)の面々。
「くッ……バカな……何故だ……アイツらが何故……ッ!?」
「ほら急いで、ジュンっ! 潔白を証明するンでしょっ!?」
 汗だくで調息するジュンを急かすかの様にカミュが腕を引っ張る。
「……ぅッ」
 ザザァ――……。
 引き摺られる様にして、ジュンは薄暗い空間の奥へと連行された。
 通路の暗がりに、仄光る赤いランプが灯っている。電子音がした。
「ここって、お前の……」
「ん? 亜空間だけど?」
 至って簡素な返事。カミュ称するパーフェクト・ワールドの様だ。
 到着したケージに乗り込む二人。カミュが押したのはB百階――。
「……そうか。振り出しに戻った、って訳か……?」
「何の事? ま、ぁんたが無事ならいいんだけどさ」
「……?」
 ゴゥン、ゴゥン――……。避難用エレベーターが作動音を奏でる。 
 ケージ内は会話も無く、気まずい沈黙がカミュを苛立たせた様だ。
「ちょっとぁんた、覚えてるでしょーね。今から向かう場所の事」
「……あぁ。最初からそこがお前の地下シェルターだったンだな」
 ジオフロント――。嘗て、カミュと礼拝堂を抜けて到達した場所。
「万一に備えて予め神霊力を注ぎ込んだ甲斐あったよ。なんて♪」
「……カミュ……」
 ここにきてジュンは、胸奥がじわりと熱くなってゆくのを感じた。
 カミュは、天界に背いて、自分と共に堕天しただけではなかった。
「……」
 瀕死状態の自分を救う為、禁忌である時間の巻き戻しを敢行――。
 のみならず自らの神霊力を注いで地下シェルターを建設していた。