ガチャン――……。
 鍵が掛かる音がした。意外にも、暗い箱の中はゆったりしていた。
 今までの喧噪がまるで嘘の様に、長閑で暗い空間が広がっている。
「……」
 瞼を閉じ、過ぎ去りし日々を想起する。アレは何時だったか――。

 記憶の片隅で、何時か……誰かの懐かしい声が聞こえた気がした。
『完全無欠の亜空間(パーフェクト・ワールド)なんだぜっ!』
「……フッ……」
 そんな事もあったか――……束の間の懐古に浸り、ふと我に返る。
「……?」
 そこはジュンが着ぐるみ少女に介抱されていた嘗ての部屋だった。
 確か少女に問題を出されていた気がしたが……良く思い出せない。
「……何だっけな……世界は……」
「それはもぅいいからっ! 急いでっ!」
「――ッ?」
 瞠目するジュン。直ぐ傍で、息せき切ったカミュの声が聞こえた。

 薄暗い空間内だが、朧気に眼が慣れてきた。かなりの広さがある。
「……何だ、ここ?」
「ディープインパクトだよっ。早く下へ行こっ!」
 何時入って来たのか、傍らに金髪少女が居た。妙に興奮している。
「下の階だってばっ。降りよっ、――急いでっ!」
「は? 下の階? ……番組のドッキリか何か?」
「ボケてる場合? 連中の鉄槌攻撃だってばっ!」
 息せききってカミュが怒鳴る。緊迫した様子から緊急事態と解る。
 そしてどうやら、この暗がりの何処かに下階への通路がある様だ。
「……連中の……鉄槌攻撃……?」
 連中――。ジュンは朧気に思い出してきた。薄々だが察しがつく。
 西暦二千百二十六年、地球上に巨大な何かが降り注ぎ、衝突した。
「地下シェルターよ! 避難しなきゃっ!」
「――ッ!」
 パシッ――。とある光景が、鮮烈に脳裏にフラッシュバックする。

 何時起きた出来事だろうか。俯瞰の視点で景色が広がって見えた。
「ジュンっ!」
「……ッ!?」
 呼び声ではっと我に返るジュン。頭上から眩しい光が落ちて来る。
 自分の真後ろに金髪の少女が見えた。遠巻きにカミュだと判った。
「……ッ!?」
 キィィィイイ――……。
 高域の飛翔音を伴い、眩く光る巨大な何かが地上に接近してきた。
 ゴォォォオオ――……。
 業火の様に燃え盛る超大型の飛行物体が超スピードで迫ってくる。
「ジュンっ! 神霊力(オーラ)を展開してっ!」
「……あぁ……」
 ガバァ――ッ。
 意を決し、ジュンは両腕を眼前に翳したクロスガードで身構える。
「このぉ……舐めンなぁっ!」
 ヴォン――ッ。
 同時にカミュと思しき少女が具現化した剣を暗黒の空に投擲した。
「殲滅せよっ! ……――Excalibur!!」
 ズガァンッ!! 残響を伴う炸裂音が暗雲の空一帯に響き渡った。
「……っ!?」
 瞠目するカミュ。落下の勢いこそ弱まったが消滅には至ってない。
 ゴォォ……。空力加熱の蒸散を免れた飛行物体が降り注いでくる。
「……嘘……っ」
 ゴゴ……ォォオオ――ッ!
 空力加熱を突破した謎の飛行物体が……落下の速度を加速させた。
「ジュンっ。……防御してっ!」 
「おぉ……――ぉぉおおおッ!」
 ……――フィ……ン……。
 ジュンの総身に漲る青白い霊気が、半径数キロ圏内を包み込んだ。
「やっぱ駄目だ……逃げなきゃ……エネルギーが強過ぎて……っ!」
 カミュが制止に入るが、力の全開放に入ったジュンは止まらない。
「おぉおおッ……――神霊力・絶対防御(オーラ・ガード)ッ!!」
 纏った神霊力を、ジュンは超速で落下する飛行物体へとぶつける。
 ――キィンーー……。謎の物体がルシファーの神霊力を上回った。
「……――ぐぁああああッ!!」
 闇間に浮かぶ球体の一角が光る。やや遅れ気味に大爆発が起きた。
 カッ。ドガァ――ッ。閃光。爆音。衝撃波が地表を粉砕してゆく。
 ガガガ――……ッ。地表の象形物やストラクチャーが塵芥と化す。