カッ――……ドガァ……ッ。
 降り頻る雨の中、一際激しい落雷が城下町教会近辺に降り注いだ。
「貴様なンぞに、……この私のやり切れぬ気持ちなぞ……ッ」
 ダッ――。
 コートの裾を靡かせながら鉤爪を振り上げた男が走り込んでくる。
「――おぉおおおッ!」
 ガバァ――ッ。
 男の叫びに呼応するかの様に、大身槍を頭上に振りかざすジュン。
「そりゃぁあッ! ――クロス・ランペイジ」
「おぉおッ! ――焦熱魔皇(グローリー)……ッ?」
 ――ギィンッ。剣戟音が鳴り渡った。
 炎上する城下町の街道の中央、降り頻る雨中に交錯する二体の影。
「……」
 ……――ドゥッ。
 暫しの沈黙の後、一体の影がゆっくりと傾ぎ、地面に突っ伏した。
「……ぐッ、手加減……したな、ジャスティン。……何故、だ?」
 土砂に顔面を塗れさせたジェラルドが背中越しに囁きかけてくる。
「私を……屠りさる事も、……出来た……ハズだぞ……?」
「ぜェ、ぜェ……。さぁな。俺にも良く理解らねェが……」
 肩で息を切らすジュン。紙一重の攻防だったが辛くも制した様だ。
「……ぁんたは根っからの悪党じゃないって……そう思ったンだ」
「……ククッ。そうか……すべてお見通しだった、って訳か……」
「……?」
 神妙に変じた男の含笑の傍で、ジュンは半ば驚きを隠せなかった。
 ――弱過ぎたのだ。侮辱でもなく、ジェラルドは本当に弱かった。
「ジャスティン。……貴殿は……本当にお人好しのクズよなぁッ」
「ンだよ今更気持ち悪ィな。お前ェに何があったか知らねェけど」
 小さく嘆息すると、ジュンは突っ伏すジェラルドに微笑いかける。
「……何時からだってやり直せるさ。お前にその気があるならな」
「ククッ……やはり温いな……貴様は。そんなだから貴様は……」
「俺はなジェラルド。ただお前が心配なだけだよ。他意はないさ」
「ククッ。こんな私にすら情けをかけるか。……虫唾が奔るわッ」
 ジェラルドが零す失笑に、ジュンは何処か懐かしさを感じていた。
 デジャヴ――。ずっと以前も、確かこうやって、こんな風に……。
「つっても俺ら元は仲間同士だったンだろ? 同情くれェするさ」
「……貴様はッ……いや、貴殿という奴はッ……ぅ、ぐぅ……ッ」
「……ジェラルド……ッ?」
 瞠目するジュン。ジェラルドが、肩を震わせて涙を浮かべている。
「……私の生い立ちから、詳細に告白しよう……私は……」
 徐に胸襟を開くジェラルド。駆け寄ったレムがジュンを催促する。
「王子っ。連中の気配がそこまで来てます。早く教会内へ」
「レム……お前さ、わざとコイツに負けたフリしただろ?」
「そんな事は今はどーだって良いんですよっ! 早くっ!」
 皮肉の籠ったジュンの冷眼に反駁するレム。男が呻き声を発した。
「ま、待てお前ら、まだ……私の話の途中だろうが……?」
「あー。悪いンだけどジェラルド。今から俺ら所要でよォ」
 レムに睨み眼で促され(脅され)途端に余所余所しくなるジュン。
「ちょぉっとだけそこで寝てて頂戴ねっ! おじさんっ!」
「……おい……」
「またな。機会があったらまた遊ぼーぜッ!」
 ガチャ、ギィ……。錆びついた蝶番の軋み音を伴い開かれるドア。
「つーか連中って誰の事だよ。聞いてねーぞ?」
「これから解りますよっ。もぉ早くついてきて」
 ダダーーッ。
 項垂れるフロックコートの男を後にジュンとレムは教会内へ急ぐ。