真っ白の光に包まれた視界が、……やがて像を結んでゆく。
「……っと」
 ふわり……床面に足が着く。ほっと安堵の息を吐くジュン。宙空ではなかっただけ、行幸といえよう。
「……」
 検めたそこは殺風景な部屋だった。部屋の四隅には、見慣れない十字の紋様が刻まれたオブジェ――。
「……十字架……」
 げんなりと肩を落とす。紛れもない、……あの部屋だ。
 ――着ぐるみに放り込まれる最中、一瞬だけ垣間見たあの忌々しい部屋――。
「……」
 落ち込んでばかりもいられない。気を取り直すと、ジュンはゆっくりと辺りを見渡してみた。
 ちゅんちゅん……小鳥の長閑な囀りが平和を醸す。ご機嫌に輝く窓からは清涼たる木漏れ日が差し込んでいた。
「……」
 ギィ……。そっと窓を開くジュンの頬を、涼よかな一陣の風が撫で過ぎていった。
 見下ろした一面に、長閑な街が広がっている。所狭しと林立した軒下で、街人達が賑やかに会話し、生活している。
「……ここは……」
 ――異世界――、なの……だろうか――。
 居住区(ベイリー)の一室とみえる。窓から顔をのぞかせて、建物の外観をざっと一望してみた。
「……」
 ゴシック調の城壁には隔世を彷彿とさせる艶と重厚感がある。どうも記憶に残る”中世”に転送された様だ。
 ギィ……まだ真新しい木製の扉をそろりと押し開け、部屋の外へと足を踏み出す。
「……」
 毛羽立ちの良い絨毯の敷き詰められたゆったりとした豪華な回廊が眼前に伸びている。
 蝋燭の火が揺らめく回廊の端々には綺羅びやかな装飾品が並び、壁面にはフラスコ調の絵画が飾られている。
「……ん?」
 一際目立つ銅像のオブジェがジュンの眼を惹いた。どうやら……少女の彫像の様だ。台座の盤面に設えられたのプレートには、”カミュ王女”と刻印されている。
「カミュ……王女……か」
 げんなりと肩を落とすジュン。確か、別れ際に、ジャスティンがその名を口にしていた様な気がする……重要人物なのかもしれない。
「……ッ?」
 ゴゴゴ……。不意に背後に迫る怖気にも似た神々しい気配が、ジュンの身を竦ませた。
 神聖ながら何処か悍ましさと無慈悲さを内包するかの様な……圧倒的なまでの”霊的”な威圧感――。
「ジャスティン……義兄さま?」
「……ッ」
 可憐な少女の様な声だ。意を決し、ジュンは用心深く……首をゆっくりと回して後方に眼を向けた。
「あーやっぱりっ」
「……え?」
 素っ頓狂なアニメ声が回廊に反響する。呆気に取られたジュンはその場に棒立ちになった。
 振り向いた先に立っていたのは、青いドレスを着飾り、艶めいた金髪をツーテールに括った愛らしい少女だった。