ズゥン、ズゥン――……。
 すっかり指揮系統が乱れたか、巨獣や魔物の軍勢が散会してゆく。
『ケキョッ?』
『キュルルル』
 ドシン、ドシン――……。
 窮場を凌いだグランドラ王国を背に、各々の生息地へ戻ってゆく。
「ケッ。強制使役から解放してやった礼くれー言えッてンだ」
『ゲァッ?』
『ゴルルッ』
 ズシィン――……。唸り声を発しながら王都を後にする魔の軍勢。
 城門から眺める眺望を、涼やかに眇めながらジャッカルが毒づく。
「群れン中にビーストマスターが居たンでよ、……始末しといたぜ」
「ッ? ビーストマスターって、……七魔人か?」
「七魔人のレイエスだ。奴さン、腕は立つが戦闘はからッきしだな」
 ククッと一頻り嗤うと、目鼻立ちの濃い顔が、厳めしく変わった。
「例の七魔人なンだが、レディ義姉さんが粗方倒したって聞いたぜ」
「……レディが、……?」
 鉄製扉を破壊したスレンダー系の美女だ。特殊能力者に相違ない。
「機械仕掛けの巨大ロボット、ステイナーは秒殺だとよ。お~怖ッ」
「……ッ!?」
 恐らくは、居城の最上階で襲撃された超重量ロボットを……瞬殺?
「……マジかよ」
 そんな鬼神が、自分を易々と見逃した訳は……魔王に似てるから?
 己の無力さに項垂れるジュン。自分の力量を凌駕した輩ばかりだ。
「……彼女は、今、何処に?」
「一足先に北方の邪教司祭ウェルズリーの討伐に向かったっぽいぜ」
「? ……て事は、……」
「合流されちゃ敵わねーって。今回ばかりは旦那も本気ぽいンでね」
「……」
 アリエスも言っていた。ジェラルドが総力を挙げて来ている――。
 魔王ジャスティンの不在に乗じ、挟撃にて王国を潰す腹積もりだ。
「……だから先手を打って北方を叩く、……か……」
「あっちは義姉さんに任せるさ。俺らは旦那の迎撃だ」
 この際だ。ジュンは、永らく心に思っていた疑問を口にしてみた。
「なぁ、お前らは……そもそも何故、王国に力を貸してるんだ?」
「あ? 虞問だな。そりゃ魔王さんが王女を護りてーからだろ?」
「敢えて敵対しているフリをして、陰から王国を護っていた……」
 反芻するジュン。横目に眇めるジャッカルの眼光が鋭さを増した。
「記憶が優れねーからって野暮ってー質問すンじゃねー。行くぞ」
 ヴァァ……。ジャッカルの総身が揺らぐ白い蒸気に包まれてゆく。
「……ッ」
「何してるジャスティン、反撃開始だッ!」
「……あぁ。解っているさ」
 ザぁ――……。白い蒸気が巨獣の居残り残党に向かって突入する。
『ギガッ?』
『ゲァッ!』
 スパンッ! ドシュッ! ザンッ!
 白い蒸気に紛れたジャッカルが得意の暗器で魔獣を血祭りに上げ。
「……くッ、頼むボルグッ!」
『――承知』
 キィィイイイ――……。
 ジュンの手元を離れた大身槍が、ドローンの様に大空を飛翔する。
 ――ドパァッ! ――ボンッ! ――パァンッ!
 宙空を旋回する神槍が群がる巨獣団を片っ端から爆散させてゆく。 
「ケケッ、やるじゃねーか」
「あぁ……そっちもな、倍速化か?」
「あ? ……蒸気化だつってンだろ」
 承知だろ? とでも言いたげに、ジャッカルが体軸を回転させる。
「おらぁッ!」
 キュ……――ドガァンッ!
 炸裂音がした。超高速の回転蹴りを浴び、巨獣が吹き飛んでゆく。
「……ッ?」
 絶句するジュン。ジャッカルの凄まじい破壊力にただ言葉を失う。
「……これが……神魔……」
 ただただ強い。一騎当千とは正にこの事だろう。改めて確信した。
 目の当たりにする魔王の側近、四神魔の底深さに戦慄するジュン。
「ヒュゥ……♪」
 パシュッ! ザンッ! ドシュッ!
 暗器を軸にジャッカルは体術も織り交ぜて魔物を蹴散らしている。
「――シッ」
 ――ドゴォオッ!!
 竜巻の様な回転蹴りを織り交ぜ、魔物の軍勢を蹴り飛ばしてゆく。
 陥落寸前だった王都、グランドラ王国が辛うじて息を吹き返した。