キィィイイ――……。
 舞い上がる血煙の中を、高域の飛来音を奏で大身槍が戻ってくる。
「――ッ」
 ――パンッ!
 旋回して舞い戻った神槍が、高々と掲げたジュンの手中に収まる。 
「……ッ」
 努めて冷静を保つジュン。この目でレムの敗北を見た訳じゃない。
 まだロックもカミュも健在だ。王都は……王国はまだ負けてない。
『ゴルルル……』
『グゲッグゲッ』
 オォオォオ――……。
 俄に殺気立つ戦場。昂った魔物の軍勢が、ジュンに狙いを絞った。
「……来いよ」
 ジャリ――。乾いた砂地の音。ジュンは不敵に神槍を眼前に翳す。
『ギゲァアアッ』
『グぁッグぁッ』
 じわりじわりと詰め寄る魔物群。統制が執れており散逸はしない。
「……ッ」
 辺りを見通すジュン。魔物を率いる指揮官が居る。何処かに――。
「……ッ?」
 不思議な光景に眼を奪われた。戦場の角で白い蒸気が揺れている。 
『ゲァッ?』
 ――ドシュッ。鈍い刺突音が上がり、血煙が大気に霧散してゆく。
 城門前。立ち尽くす眼前の一角で、魔物の隊列が突如崩れてゆく。
『ゴァオアッ』
『ケキョォッ』
 一寸、混乱する魔物群。その間隙を縫う様に白い蒸気が移動する。
 ――ザンッ、ドシュッ、スパンッ! 連続的に噴き上がる血飛沫。
 ドォン――。傾いだ巨体が連鎖的に倒れ伏し、地面を強振させる。
『ゴァッ?』
『ケキョッ』
『ゴゴァ!
 ――ズゥン。――ドォンッ。――ダァンッ。
 魔物の隊列が乱れてゆく。散会した巨獣が一体、一体と地に沈む。
「……ビーストマスターだ……始末しといたぜ」
「――お前はッ?」
 ジュンの眼前で白い蒸気が晴れ、黒ジャケットの男が姿を見せた。
「ボヤボヤしてンじゃねーよ、ジャスティン」
「――ジャッカル?」
 思いがけぬ邂逅に瞠目するジュン。城館の死闘を搔い潜った様だ。
「……無事だったのか?」
 ザッ――。
 倒壊間際の城門前に相背で並び立つ二人。ジャッカルが口を開く。
「ったくらしくねーな……何時もの銃はどした?」
「……銃? いや、『今は』持ってないが……」
 咄嗟の機転で嘘を交ぜた。ジャスティンの武器は、『銃』の様だ。
 クローゼットに隠されていたのは、恐らく銃だったと推測出来る。
「へぇ忘れたか。まぁテメーの神霊力なら何とでも…………ん?」
 ジャッカルが一瞬、首を斜に傾げてジュンを窺う素振りをみせた。
「あぁ……だよな?」
 神霊力(オーラ)。アドルも口にした言葉。自分には無い何かだ。
 それが無くともカミュを護り、愛美の洗脳を解けるだろうか――。
 異世界から来ただけの普通の人間の自分に、護りきれるだろうか。
『小僧……悩んでいる暇があるのか?』
「……あぁ、だよな……」
 束の間の内省もいいが、今、必要とされているのは現状の打開だ。
 時間は――、今この瞬間は、待ってはくれない。前進あるのみだ。
「胸騒ぎがする。どうも旦那の御到着が近い。急ぐぞジャスティン」
「旦那……ジェラルドか? ……あぁ、解った」
 気を引き締めるジュン。暗黒皇帝やらとの決戦が迫っている様だ。