オォオオォ――……。
 砦に囲まれた王城はところどころ崩落し、火の手が上がっている。
『ゲゲァ』
『キキィ』
 バキバキ――……ズズゥン――ッ。地響きを上げて倒れ伏す木々。
 侵入した巨獣モンスターが、悠々と敷地内の庭園を荒らしていた。
 ドゴォン。バゴォン――。
 退屈凌ぎに石壁を破壊する輩も現れた。王都陥落は時間の問題だ。
「……ッ」
 顔を上げ、王城の塔、カーテン幕壁の最上段に聳える城塔を仰ぐ。
 アドルとカミュを乗せて飛び立った白竜が近辺の上空を旋回中だ。
『――ギゲァアアッ』
 甲高い嘶きを発し、口から真っ白な指向性光線を吐き出している。
 シュゥゥ――……パキパキッ。
 遅れ気味に照射地点が氷結してゆき、一帯の魔物が動きを止めた。
「すげぇ……凍らせちまったよ……」
 一時的にせよ――、アドルが味方につくのは心強い事この上ない。
「……ッ」
 キュンキュン――……ドドドドッ。密集する群生を穿つ光の弓矢。
 城砦を護る様に展開されたカーテン状の幕壁に面した側防塔――。
 最深部に陣取る防御城塔の狭間から射出される弾幕も続いている。
「……ロックの野郎」
「ガルルルァアッ!」
 ドォンッ! 怒号に続いて突如、城下町の大酒場が爆破炎上した。
「ゴルルルァアッ!」
「……ッ?」
 ドゴォ――。バキィ――。炸裂音が周囲に反響し戦場を賑やかす。
 一体の巨漢の影が、燃え盛る業火の中を狂ったように暴れている。
『ギギィッ!』
『ゴフッ!?』
 ドゴォッ! 丸太の様な両腕に吹き飛ばされ爆散、圧死する魔獣。
 身の毛もよだつ凄惨たる光景に、ジュンは暫し呼吸も忘れ見入る。
「ウォオオオオーー……」
 ドコドコドコ。太鼓音。巨体を両腕で叩いての、ドラミング――?
「あんな酔っ払い、王国に居たのか……?」
 例え変態だろうと助太刀が欲しい今の王都には一縷の望みに映る。
「そうだ……まだ終わりじゃねェ……」
 多勢に無勢の絶望的な状況とはいえ、王国側も意地をみせている。
「……待ってろ、カミュッ」
 パンッ。逸る気持ちに突き動かされ、ジュンは足元の槍を取った。
『我を手にしたか。……良いだろう』
 パァ……。刹那、視界が白く染まった。羞明に眼を眇めるジュン。
 手にした瞬間、槍本体の意識がジュンの思考に直接干渉してきた。
『小僧……そなたに力を貸してやる』
「――お前はッ!」
 瞠目するジュン。まるでテレパシーの様に、槍が語り掛けてくる。
『我が名はボルグ。『熱』を司る神槍。小僧、……我に気力を注げ』
「……ぉおッ」
 ――キィン……。
 手から総身に熱が流れてくる。灼熱に燃える昂揚感が総身に漲る。
「……ッ」
 キィン、キィン――……。
 『情報』が流入する。ジュンは一瞬の内に『ボルグ』を理解した。
 攻撃手法は使い手次第だが、特性は一種のみ。熱膨張での爆散だ。
 精神エネルギーを熱変換し、殺傷した相手を瞬時に熱膨張させる。
「……それが、お前の力かよ」
『左様。見事、我を活用してみせよ。さらば道開かれん』
「あぁ……言われなくてもな……やってやるよ」
 ギシィ――……。
 七尺ものリーチを誇る真鍮製の柄。四尺もの長さを誇る巨大な穂。
 手にして初めて理解った事だが、ズッシリとした重量感があった。
「義兄さまぁっ!」
「……ッ!?」
 遠間からカミュの叫び声が届き、視線を手元から城塔へと仰いだ。
 城塔壁に開いた狭間から金髪の少女が手を振っているのが見えた。
『グゲァアアッ』
 シュゥゥゥゥ――……パキキキキ――……。
 怪奇な雄叫びが上がり、真っ白な吐息が周囲を凍り付かせてゆく。
 頭上の宙では、アドルの乗る白竜が上空から魔物を掃討中である。
「……待ってろよ、カミュッ」
 ギュゥゥ――……。
 硬く冷たい柄を握り締めるジュン。当座のゴールは魔物の掃滅だ。