Excalibur

 オォオォオ――……。
 魔物の跋扈する荒廃しきった城下町の一角に潜むジュンとカミュ。
 街内を出歩くのは無謀との判断の上、安全な隠れ家を探していた。
「わぁっ」
 遠くで、少女の叫び声がした。声の響きからみて、レムだと解る。
「レム? あぁ、そんな……」
「……くッ、」
 魔物の巡回を恐れ助太刀すら出来ない。己の無力さに歯噛みする。
 万事休す――。ジャスティンの助言を無視した報いかもしれない。
 だとしても、――今、自分に出来る精一杯の努力をするしかない。
「レムを……、助けないと……っ」
「駄目だ、今は……お前の護衛が最優先なんだ、カミュ」
「義兄さま…………嬉しい……っ」
 カミュの淡い笑顔が、王国を護れなかった自責の念が、胸に痛い。
「……ぅ、ぐッ」
 ギ――……。
 噛みしめた口端から一条の血が伝い、乾いた地面に染みを象った。
『ケキョォッ!』
『ギゲゴガァッ』
 突如の奇声に背後を振り向くジュン。その眼が慄然と見開かれた。
『キョキョガッ』
『グゲゲゴガッ』
「……チィッ!」
 バッ――。
 跳躍一番、緑色の体躯をした小猿の様な集団が躍りかかってくる。
「義兄さま、ゴブリンですっ!」
「くッ、囲まれていたのかッ!」
 ヒュボ――ッ、ゴッ、ゴンッ!
 振り返り様に、ダッキングとコンビネーションで迎撃するジュン。
「――シッ」
 パァンッ! ドゴォ! 左右の連撃がゴブリンを殴り倒してゆく。
『ギャンッ!』
『グゲゴギ!』
 ゴゴッ、ドドォ――ッ。
 軽快なワンツーパンチの連撃を喰らい地面に撃ち落される猿軍団。
『ゴルァゥアッ!』
 ――ズゥン。
 一際大柄な茶色のゴブリンが現れ、ジュンの前に立ちはだかった。
「……チッ」
「ゴブリンチャンピオンです。義兄さま、気をつけてっ」
「んだよ、チャンピオンって」
「ゴブリンの中でも、特に獰猛な王者に冠せられた称号なのっ」
『――ゴルルァッ!』
 ヴォン――。振り上げた大きな棍棒を、力任せに殴りつけてくる。
「……ッ」
 ドォンッ!
 横っ飛びで縦殴りの一撃を躱すジュン。地面がベコンと陥没した。
『……ゲッ、ゲァッ、ゲアッ』
「んだよ気色悪ィ、何言ってンだか解ンねぇよ」
 奇怪な薄ら笑いを発する巨体ゴブリンを前に、ジュンは身構える。
 丸腰の両拳があの頑強な体に通用するか不明だが、やるしかない。 
「義兄さまっアレを……っ」
 ……ゴォォオ――ッ!
 息つく間もなく、見上げた紺碧の空を大型翼竜が急降下してくる。
「ッ! あんなモン……」
 肝を冷やすジュン。大型翼竜の急襲に対処出来る自信は――ない。
『ゴルルルァッ!』
 ヴォン――ッ!
 同時期に巨体ゴブリンが棍棒を振りかざし、ジュンに狙いを絞る。
『ギャァアアア』
 カッ――。
 急降下する翼竜の背上で何かが一瞬……キラリと光った気がした。
「? 伏せろカミュッ」
「きゃあっ」
 ドゥ――。カミュを庇う様に覆い被さり、地べたに伏せるジュン。
『ゴルル――ギァッ!』
 ――ズドォッ! 刹那の衝撃に巨体ゴブリンの巨躯が、硬直する。
 ボン、ボンッ――。各部が膨らみ、全身へと膨張が広がってゆく。
『グギッ? ――ゲァァアッ?』
 ドォンッ!!
 瞠目する二人の眼前で、風船の様に膨れ上がった巨体が爆散した。