ボウ――……。
 仄光る薄明りが、遠い。何処までも伸びる地下通路を黙々と走る。
 体感、数分間は薄闇を走り続けている気がした。流石に遠過ぎる。
「……?」
 違和感を覚えた。レムはまだしも、カミュはこんなに走れるのか?
「……」
 ピタリ――……。
 足を止める。地響きも、喧噪も、すっかり聞こえなくなっていた。
 このまま一切の役割を放棄し、彷徨うのも……悪くないと思った。
「――駄目だ」
 我に返るジュン。カミュを護り、妹の洗脳?も解かねばならない。
「……いや、いいんじゃないか?」
「ッ!?」
 フッ――。周囲が闇に覆われた。深い闇から謳い興ずる声がする。
「いい加減に気付け。ジュン。お前は利用されているだけだ」
「誰だッ!」
 姿は見えないが、幽玄の様な声だけが甘く優しく諭しかけてくる。
「可哀相に……ジャスティンに利用され、カミュにすら利用される」
「……ッ?」 
 ジャスティンが……いや、カミュすらも自分を利用している……?
 どう利用されているのかは解らないが、だとしても使命を担った。
「そして君は、何者にもなれない。永遠に道化師を演じ続けるのさ」
「……」
 異世界で大切な使命を託され、それを担った事実は変えられない。
「……だよな」
 とうに覚悟は決まっていた。ピエロで結構。それも含めて自分だ。
 誰に利用されようと関係はない。自分は自分の正義を貫くだけだ。
「――だからどうした?」
「……?」
「そんな事とっくの承知の上で、敢えてピエロ業請け負ってンだよ」
「……バカなッ」
 自ずと、言葉に力が漲る。ジュンは自分自身に言い聞かせていた。
「二人との約束を守る、そう自分で決めたンだ。後悔なンてねーよ」
 信ずる道を進めばいい。自分の心に正直であればそれでいいんだ。
「……それで君はいいのかい? 道化師のまま一生を終えるなんて」
 意外そうな響きを帯びる謎の声に、ジュンは断固として言い切る。
「どう思われようと関係ねえ。自分の人生だ、自分で責任を持つさ」
「……承知した」
 パぁ――ッ。
 不意に視界が明るくなる。ふと気付くと、ジュンは城下町に居た。