オォオォオ――……。
 荒れ果てた城内の回廊脇で、先頭のジュンを基に立ち止まる一行。
 アリエスの示唆したある可能性が、ジュンに猜疑心を齎していた。
「魂魄の……移乗?」
 つまり……魂を移し替える儀式……? という事になるのだろう。
 本当か? ジャスティンがそんな非人道をするとは考えたくない。
「えっ? 何?」
「義兄……さま?」
「……」
 周囲の心配を他所に半ば放心状態のまま、両手をジっと見つめる。
「……ッ」
 意識を、自分自身をジャスティンに乗っ取られた感覚は……ない。
『……儀式の途中か……』
 ――ッ。!?
 レディの言葉を想起する。儀式がまだ済んでいない可能性がある。
 では、何を以て儀式は済むのか? クローゼットの秘密が怪しい。
「……」
 自分は幼少期、現実世界で育った。愛美と共に遊んだ記憶もある。
 この異世界とは別の世界で暮らしていた。これだけは確かな事だ。
「だが、……『偽の記憶』、とは……?」
 ジャスティンの台詞ではあるが……彼の言葉は信に値うだろうか?
 過去の記憶が改竄された贋作ではない、という確証が欲しい――。
「……!」
 一つだけ、頼りなくはあるが……心当たりがあるといえば、ある。
 異世界に来た当初、カミュの部屋で見つけた十字架のペンダント。
 自らをアリエスと銘打つ当少女にそれを見せ、反応をみれば――?
「どったの、ジャスティン」
「いや……何でもない……」
 容姿も性格も記憶の中の愛美とは異なる。別人なのかもしれない。
 探し求めていた妹に会えたと早合点して、浮かれていた事も事実。
 それに今はジェラルドの総攻撃の最中の様だ。時間的余裕も無い。
「……解ったよ……先を急ごう、……アリエス」
「おっ、よーやくぁたしの本名で呼んでくれたぁっ♪」
「……今の、ところは……」
 嬉々として溜飲を下げる少女の傍で、ジュンは遠慮がちに微笑う。
「! 義兄さま。物置倉庫は直ぐそこですが……」
「ほら王子、ぼやぼやしてると魔物が来ますよっ」
 後方で足踏みする二人にも急かされ、ジュンは重い足取りを運ぶ。