タタタ――……回廊を走る靴音。目的地はカミュの言う隠し通路。
城と街を連結する地下通路への出入口が物置倉庫に在るとの事だ。
本音を言えば王子室に直行したかったが、王女の退避を優先した。
――タタタッ。
レムが先頭を走り、中間をジュンとカミュ、殿軍は神魔が見張る。
「……しかし……酷いな……」
オォオオオ――……。
朽ちた城壁。散らかった調度品。荒れ果てた城内が広がっていた。
「う、……家臣たちが……」
「残念だが……壊滅っぽいな……」
回廊沿いの前室、板縁、支柱。至る所に家臣の屍が点在している。
血溜りの出来た箇所は特に滑りやすく、慎重な走破が必要だった。
「……あの時、既に……か」
ジャッカルと行動していた時、城内が静まっていた事を思い返す。
恐らくは、七魔人の急襲に依る壊滅的被害を浴びたと考えられる。
「くっ、ボクが戻るのがもう少し早ければ……こんな事には……」
「ぁたしが来た時には、もうとっくにこんな状態だったけどなー?」
「……。二人とも、あの連中にはまだ遭遇して無いのか?」
「連中って?」
背後からの問いにジュンは首を後ろに回し手早く状況を説明する。
「ジャッカルって奴から聞いてないのか? ジェラルドの親衛隊だ」
「へ? 七魔人が来てンの? ぅわっ、やっば~……」
神魔があからさまに顰めっ面を作った。何らかの訳がありそうだ。
「ヤバいって……何が?」
「七魔人ってのはジェラルドの近衛兵な訳。彼らが動いたって事は」
「……大体、察しはつきますけど――」
憂え顔のカミュを他所に、一呼吸置くと神魔は憮然顔で言い切る。
「本件は非常時。要するに。ジェラルドが全力で潰しに来たって事」
「チッ、……全力で……かよ」
「望むところだ。返り討ちにしてやるっ!」
バンッ! タタタ――……。
阻む木製ドアを蹴飛ばすレム。奥は入り組んだ回廊が続いている。
「あとどれ位かかる?」
「もう直ぐ着きますっ」
――タタタッ。
隊列が自ずと変わる。ジュンと神魔が、率いる様に先頭を疾走る。
「なぁ、愛美」
「あのー悪いんだけど、その愛美って呼び方どーかなんない?」
「ん? お前さ、『愛美』って呼ばれてた事、覚えてないか?」
「さぁね。ぁたしの名はアリエス。愛美なんて呼ばれてないよ」
あっけらかんと応える神魔。愛美という語感に馴染みはない様だ。
「昔よく、俺と一緒に遊んだ事とかも、……覚えてはないか?」
「はぁ? ぁんたと最初に会ったのはユグドラ森林地帯だよう」
「……ユグドラ森林地帯……?」
初耳の地名。やはりこの少女、妹に似てるだけの別人な気もする。
ジャスティン曰く『偽の記憶』との関連性も気になる所ではある。
異世界に来て洗脳された可能性もあり得る。何か切っ掛けは――。
「……ッ!」
カミュの部屋で嘗て見た『ペンダント』が脳裏に浮かび上がった。
アレを見せれば或いは……。しかし、今はカミュの退避が優先だ。
「……愛美。ジェラルドの軍事力はどれ程あるんだ?」
「あーまたその呼び名……はぁ。もう好きにすれば?」
小さく息を吐くと神魔は美貌を前に戻す。その眼が険しくなった。
「七魔人とぉ……更に北方の大国と軍事同盟結んだっぽいからなー」
「北方の大国、……とは?」
「北方にウェルズリーって邪悪な教皇が居るの覚えて……ないよね」
タタタ――……。
進行方向に、倒れ伏す兵士の屍に群がる魔物の一群が見えてくる。
「グゲァアァウッ!」
「ギャゥギャルゥッ」
「……はん、邪魔よ♪」
キュルルル――……スパァンッ!
回廊に屯する魔物の残党を、宙を旋回する大鎌が秒で薙ぎ倒した。
「まぁ、……何れにしたって、まともな相手じゃなさそうだな……」
「ぅん。信者の間じゃ、カニバリズム卿って呼ばれてる程の超変態」
前方での悍ましい会話に、後ろを追走するカミュが身を震わせる。
「ぅぷっ、け……汚らわしいっ。邪道に堕ちた暗黒司祭め……っ!」
「カニとリズムダンス? 北はそんな遊びが流行ってるのですか?」
後列で勝手に納得する二人。ジュンは神魔に疑問をぶつけてみる。
「……連中の目的は何だ? 何故、このタイミングで王国を襲う?」
「魔王ジャスティン。あんたの不在だよ。王国の守護が乱れたから」
「不在? 俺はちゃんと、こうやってここに――……ッ!」
熱弁するジュンを横目で睨み据えながら、神魔が美貌を近づけた。
「ねぇ魔王さま。……魂魄を移乗する儀式、って聞いたけど……?」
「――ッ!?」
タタ――タッ。
神魔の意味深長な囁きかけに、ジュンは絶句して走る足を止めた。
城と街を連結する地下通路への出入口が物置倉庫に在るとの事だ。
本音を言えば王子室に直行したかったが、王女の退避を優先した。
――タタタッ。
レムが先頭を走り、中間をジュンとカミュ、殿軍は神魔が見張る。
「……しかし……酷いな……」
オォオオオ――……。
朽ちた城壁。散らかった調度品。荒れ果てた城内が広がっていた。
「う、……家臣たちが……」
「残念だが……壊滅っぽいな……」
回廊沿いの前室、板縁、支柱。至る所に家臣の屍が点在している。
血溜りの出来た箇所は特に滑りやすく、慎重な走破が必要だった。
「……あの時、既に……か」
ジャッカルと行動していた時、城内が静まっていた事を思い返す。
恐らくは、七魔人の急襲に依る壊滅的被害を浴びたと考えられる。
「くっ、ボクが戻るのがもう少し早ければ……こんな事には……」
「ぁたしが来た時には、もうとっくにこんな状態だったけどなー?」
「……。二人とも、あの連中にはまだ遭遇して無いのか?」
「連中って?」
背後からの問いにジュンは首を後ろに回し手早く状況を説明する。
「ジャッカルって奴から聞いてないのか? ジェラルドの親衛隊だ」
「へ? 七魔人が来てンの? ぅわっ、やっば~……」
神魔があからさまに顰めっ面を作った。何らかの訳がありそうだ。
「ヤバいって……何が?」
「七魔人ってのはジェラルドの近衛兵な訳。彼らが動いたって事は」
「……大体、察しはつきますけど――」
憂え顔のカミュを他所に、一呼吸置くと神魔は憮然顔で言い切る。
「本件は非常時。要するに。ジェラルドが全力で潰しに来たって事」
「チッ、……全力で……かよ」
「望むところだ。返り討ちにしてやるっ!」
バンッ! タタタ――……。
阻む木製ドアを蹴飛ばすレム。奥は入り組んだ回廊が続いている。
「あとどれ位かかる?」
「もう直ぐ着きますっ」
――タタタッ。
隊列が自ずと変わる。ジュンと神魔が、率いる様に先頭を疾走る。
「なぁ、愛美」
「あのー悪いんだけど、その愛美って呼び方どーかなんない?」
「ん? お前さ、『愛美』って呼ばれてた事、覚えてないか?」
「さぁね。ぁたしの名はアリエス。愛美なんて呼ばれてないよ」
あっけらかんと応える神魔。愛美という語感に馴染みはない様だ。
「昔よく、俺と一緒に遊んだ事とかも、……覚えてはないか?」
「はぁ? ぁんたと最初に会ったのはユグドラ森林地帯だよう」
「……ユグドラ森林地帯……?」
初耳の地名。やはりこの少女、妹に似てるだけの別人な気もする。
ジャスティン曰く『偽の記憶』との関連性も気になる所ではある。
異世界に来て洗脳された可能性もあり得る。何か切っ掛けは――。
「……ッ!」
カミュの部屋で嘗て見た『ペンダント』が脳裏に浮かび上がった。
アレを見せれば或いは……。しかし、今はカミュの退避が優先だ。
「……愛美。ジェラルドの軍事力はどれ程あるんだ?」
「あーまたその呼び名……はぁ。もう好きにすれば?」
小さく息を吐くと神魔は美貌を前に戻す。その眼が険しくなった。
「七魔人とぉ……更に北方の大国と軍事同盟結んだっぽいからなー」
「北方の大国、……とは?」
「北方にウェルズリーって邪悪な教皇が居るの覚えて……ないよね」
タタタ――……。
進行方向に、倒れ伏す兵士の屍に群がる魔物の一群が見えてくる。
「グゲァアァウッ!」
「ギャゥギャルゥッ」
「……はん、邪魔よ♪」
キュルルル――……スパァンッ!
回廊に屯する魔物の残党を、宙を旋回する大鎌が秒で薙ぎ倒した。
「まぁ、……何れにしたって、まともな相手じゃなさそうだな……」
「ぅん。信者の間じゃ、カニバリズム卿って呼ばれてる程の超変態」
前方での悍ましい会話に、後ろを追走するカミュが身を震わせる。
「ぅぷっ、け……汚らわしいっ。邪道に堕ちた暗黒司祭め……っ!」
「カニとリズムダンス? 北はそんな遊びが流行ってるのですか?」
後列で勝手に納得する二人。ジュンは神魔に疑問をぶつけてみる。
「……連中の目的は何だ? 何故、このタイミングで王国を襲う?」
「魔王ジャスティン。あんたの不在だよ。王国の守護が乱れたから」
「不在? 俺はちゃんと、こうやってここに――……ッ!」
熱弁するジュンを横目で睨み据えながら、神魔が美貌を近づけた。
「ねぇ魔王さま。……魂魄を移乗する儀式、って聞いたけど……?」
「――ッ!?」
タタ――タッ。
神魔の意味深長な囁きかけに、ジュンは絶句して走る足を止めた。

