記憶の片隅で、何時かの声……謳うような快活な少女の声が響く。
 何時ぞやの光景……祭殿での生温かな唇の感触が、脳裏を過った。
『病める時も、健やかなる時も、――貴方は……』
 ズキン――ッ。
 デジャヴを伴う奇妙な頭痛に襲われて、ジュンは顰めっ面を作る。
「――カミュッ」
 聖堂内へと雪崩れ込むなり、ジュンの眼が真っ先に祭殿を追った。
「……きゃぁああ……あっ?」
「――ッ!」
 得も言われぬ安堵感が胸を満たす。求めていた姿がそこにあった。
 時の移ろいと共に忘れていた景色。懐かしい青春がそこにあった。
「あーっ。もぉ何やってたのっ!」
「……すまない」
「今さぁ、大変な事んなってんのに!」
 ……ザザ……ァ――……。
 膨れっ面で遠間のジュンを批難する金髪少女の姿が、一瞬ブレる。
「……?」
 胸中をざわつかせる違和感に、ジュンは一瞬眉を顰める。しかし。
「身動き取れないのーっ! 早くこっち来て手を貸してよっ!」
「あ……あぁ」
 半ば条件反射で、足が勝手に祭殿上の金髪少女へと向かってゆく。
「ほら、早くぅっ!」
 相変わらずの我が儘ぶりだが、何故か妙な安堵感を感じてしまう。
「あぁ……待ってろ、今――ッ?」
 ヴゥ――ン……。
 不意に、手前の空間に黒い歪みが現れ、渦を巻き巨大化してゆく。
「な……ッ」
 息を呑むジュン。三銃士? 七魔人? 四神魔? 暗黒皇帝――?
「ここで会ったが百年目よっ」
 ――バンッ!
 情報を整理する暇もなく衝撃波が発生、中から少女が姿を現した。
 黒髪ツーテール。煽情的な薄手の水着に身を包んだ軽装の少女だ。
「――愛美ッ?」
 瞠目するジュン。虚空に現れたのは、嘗て森で失踪した妹だった。