カンカン。騒然たる靴音が石畳を打ち鳴らす。下層へ急ぐジュン。
 鼓動の早鳴りを感じる。駆け付けねばならない。一刻も早く――。
「くくッ……その奮闘たる姿勢や良し……流石は魔界の元プリンス」
 何処からか響く幽玄の様な声……紳士的な美声がジュンを弄する。
 ズズゥゥ――……ン。
 断続的に揺れる暗い回廊内を振り仰ぐが、揺れる灯篭の明りのみ。
「くッくッ……魔王ジャスティン……記憶もままならぬというのに」
「……チッ」
 カミュが最優先事項。姿も見えぬ嘲弄に付き合っている暇はない。
「が、皇帝殿の勅令だ。我が意図に反し……貴様を屠らねばならぬ」
「――抜かせッ」
 怒声が無人回廊に空しく反響する。ジュンの挑発に乗ってこない。
「しかし妙な話だ……貴様の思い人の気配が、我には感じられない」
「……ぁン?」
 妙なニュアンスを持つ響きだが、今のジュンには余裕もなかった。
「……ちィと黙ってろッ。後でボコボコにしてやっからよ!」
「クックッ……威勢の良い獲物を狩るのも、久方ぶりで胸が躍るわ」
「……抜かしてろッ」
 ダダダ――ッ。
 下層、下層へと悲鳴の方角に目星を絞りながら、声の続報を待つ。
 きゃぁあああっ!
 すぐ真下……下階から、再度の悲鳴が今度ははっきりと聞こえた。
「――カミュッ」
 ダンッ。段差を超えて飛び降りると、ジュンは声の方角へ向かう。
「……ッ!」
 滑走の脚が止まる。行き着いた先は、薄暗い無人の礼拝堂だった。