キィン――ッ。
 橋むかい近辺で剣戟音が響いてくる。交戦地点は城門の直ぐ手前だ。
 辛うじて均衡を保っている様に見えるが、前線は後退しつつあった。
「レム、俺も加勢するぞ」
「あー駄目駄目っ!」
 ト――ッ。
 跳躍一番、ジュンの元に着地するなり、レムは不満そうに叱責する。
「バカも休み休み言って下さい。先程まで放心状態だったでしょう?」
「……え?」
 放心状態――? 意味が解らず、軽装の闘剣士少女、レムに尋ねる。 
「俺が……? 何時、何処で?」
「改装中の礼拝堂、――聖殿の椅子付近との報告が上がっていますよ」
「……バカな……」
 絶句するジュンを不満気に睨み据えてのレムの説教が、滔々と紡ぐ。
「多分ですけど。王子ってば病み上がりでご記憶が優れないのでは?」
「……ッ」
 そんな筈はない――。至って正気だし、先まで確かにカミュと――。
 『偽の記憶に気をつけろ』――ジャスティンの言葉が脳裏を掠めた。
「カミュは? あのじゃじゃ馬は何処へッ?」
「……は?」
 真顔を作るレム。信じ難いといった紅い双眸が、ジュンを見据える。
「はぁ。王女を匿う守役の忘却ばかりに飽き足らず――」
 嘆息しきりに首を横に振るレム。その慇懃な口調が、刺々しくなる。
「――彼女の行方を指揮官たる我々に尋ねようとは……」
「ッ! 違うッ。俺はさっきまでカミュと居たんだッ!」
 声を荒げるジュン。戦闘中の王国兵団が訝し気にジュンを仰ぎ見る。
「……なんだ? また病弱王子か」
「レム隊長と揉めてンのかよッ!」
「お前さ、戦闘力もない癖にしゃしゃり出やがって……ッ」
 苛立ちを隠そうともせず、ジュンに冷ややかな眼差しを注ぐ家臣達。
「王子、家臣たちが苛立っています。速やかに城門内への後退を」
「……――ふざけるなッ!」
 劣勢に立たされ怒声を上げるジュン。一触即発の緊張感が場を包む。