オォオォオ――……。
 黄昏時の宮殿前の砂地で、カミュが元気いっぱいに跳ね回っている。
「ドガがガガガッ! バキュンばきゅんばきゅんばきゅんっ!!」
「……」
 介護、という言葉が脳裏に鮮烈に浮かぶ。無縁だとそう思っていた。
 歳を経れば脳も退化するというが、ここまでの惨状は想定外だった。
「ねー義兄さま、今ぁたしの事、狂ってるって思ってるっしょ!」
「…………あぁ…………」
 疲れていた。憔悴しきった面相で、そう口に出すのがやっとだった。
「なら、――見せたげるっ♪」
「……は?」
「これがぁたしの本気よっ!」
 ヴン――。
 プロジェクションマッピングの様な立体スクリーンが浮かび上がる。 
 黄昏時の宮殿を背景に、宙空に地上での戦闘の光景が映し出された。
「……ッ?」
 ギャァアアアア――……。
 魔物の咆哮、奇声。王国兵団の雑踏、喚声、士気高揚の景色が展開。
 現場の臨場感がマップ一杯に轟き、一人客席のジュンを仰天させる。
「んじゃ、ぁたしにフォーカス合わせるねっ♪」
「……お前に?」
 ヴン――。
 呼応に合わせ視点が切り替わり、モニターが橙色の髪の少女を映す。
「……これはッ」
 魔物の軍勢に単騎で突撃し、片手の剣を縦横に揮う人型の影が一体。
 朝礼の時に垣間見た、橙色の髪を肩で切り揃えた軽装の少女だった。
「戦闘サイボーグ・レムちゃんでぇーっす♪」
「……遠隔操作かッ」
 ヒュォ――ッ。
 ジュンの鼻先で正拳を止めながらカミュが口端をニッとつり上げる。
「正解。言ったでしょ? ――”戦略的撤退”って」
「……ッ」
 階段を下りながらカミュが言った台詞だ。最近平和とも言っていた。
「まさかお前、……一人で王国の平和を護っていたのか?」
「さぁねぇ~♪」
 ボクササイズに興じるが如く拳を振りながら、にんまり微笑う少女。