ヴォォォオ――……。
 地上の喧噪を他所に、己をミッシェルと称する乗り物が快活に奔る。
「……へぇ」
「乗り心地どお?」
 フォォォ――……。
 排気音や細振動を感じない。電子制御されたリニアの様な疾走感だ。
「あぁ……快適じゃないか」
「んーまぁねっ。それ程でもないけど♪」
「……」
 ミッシェルを褒めたつもりだが、ご機嫌になったのはカミュだった。
「もーすぐ着くからね」
「あぁ……しかし驚いたな」
 流れる景色をフロント越しに見つめ、ジュンは感嘆の吐息を漏らす。
 近未来ビークルが遊走する様は巨大な遊園地に居る感覚に近かった。
「……」
 流れる景色。――過去と現在、そして未来――。全ては移り変わる。
 失笑するジュン。当初は中世の異世界に来たものだと思っていたが。
「んー、地上は確かに文明化が遅れてるかもね」
「……は?」
 心中を見透かされ、どきっとして隣席を見た。涼しい青い眼が笑う。
「ぁんたの顔にね、そー書いてあった」
「……マジかよ」
 げんなりして眼を細める。まったく、気が休まらないとはこの事だ。
「ぁたしね、読心術得意なんだぁー♪」
「……あ、そ……」
 勝手にやってろ……その言葉を仕舞う。別に読まれて困る事も無い。
「で……操作は?」
「全自動だよー」
 屈託ない返事がかえる。
 カミュは運転席側で腕組みをしており、ハンドル操作をしていない。
「ん-。強いてゆーとね、ぁたしが操作してンだよねー」
「……どうやって?」
「アイシーチップって知ってる? マイクロチップともゆーけどね?」
「……いや」
 嘘をついた。異世界から来た、という真相を知られる訳にいかない。
「アレをこめかみの皮下に埋設してー脳神経に連結させてぇー」
「……」
 連想もしたくない話だが、カミュは至って普通ですといった口調だ。
「チップからネットワーク端末やアプリに信号送って遠隔操作すンの」
「マジかよ。アイロボットやターミネーターの世界観だな」
「へへー。信じた?」
 悪戯っぽい光を宿した青い瞳は、ジュンの反応に興味津々の様子だ。
「さぁ……どうだろうな」
「ちぇー。つまんないの」
 はぐらかすかの様なつれない答えに、カミュは膨れっ面を浮かべる。