地上での動乱を一旦保留に、カミュの先導でオフィス街へと向かう。
「へーい、タクシーっ!」
「……ッ」
 キュゥゥゥ――……ン。
 電子の駆動音を奏でながら、小型の二人乗りタクシーが直近に停車。
「さぁ乗って!」
「……あぁ……」
 ガチャ、バタムッ――。
 乗り込むや否やドアが閉まると、音も立てずに滑らかに走り出した。
「行き先は――モンサンミッシェル大聖堂!」
「……アクセプト」
 闊達な注文に、ヴイチューバ―の様な無機質な返事が車内を満たす。
「……は?」
「あんたじゃない! ミッシェルに言ってんのっ!」
「……ミッシェル?」
「――AIタクシー、ミッシェルデス。ドウゾオミシリオキを――」
「ほら、ミッシェルだって言ってンじゃんっ! 間抜けっ」
 ジロリ――。
 運転席からジュンを睥睨する青い眼が、幾許かの刺々しさを帯びる。
「原始時代まんまの生命力で生きてる地球創生の化石に言ってない!」
 そう怒鳴りつけるや否や、少女はしまったとばかり顰めっ面を作る。
「地球創生の……は、何?」
 言っている意味が解らず、ジュンは苛立たしい気持ちを抑えつけた。
「――ごめん。何でもないっ!」
「……」
 疲れる……。助手席側シートに凭れ掛かったままジュンは項垂れた。
 やはりこのグランドラの王女、どうもおかしい。このままでは――。
「……王国滅亡だろ……」
「あ?」
「――ケンカはオヤメクダサイ」
 睨み合う二人を、ヴイチューバ―の機械音声がやんわりと仲裁する。