Excalibur

 コツ―ン、コツ―ン……。
 靴音が響く。薄暗く続く螺旋階段は、終わりのない無限回廊の様だ。
「義兄さま、なんか変わった?」
「……え?」
 鋭い指摘に一瞬、肝を冷やす。が、直ぐに気を取り直し毅然を保つ。
「いや、俺は変わってない。前と同じだ」
「なんかねー。違う気がする。以前の義兄さまっぽくないっつーかぁ」
「……さぁね」
 鋭い指摘も、ジャスティンとの約束の手前、認める訳にはいかない。
「……どうかな?」
 境内で遭遇したジャスティンは気品のある物腰穏やかな優男だった。
 が、妹(義妹?)のカミュからは、頼りない男に見えたのだろうか。
「でもまっ。確かに急いだ方が良いかもねっ」
「……?」
 カンカンカン――。
 カミュのピッチが上がった。小走りで回廊を降りる金髪少女に続く。
「……まだ続くのか?」
「ほーら、到着したよ」
「――ッ?」
 カンッ。回廊を下りきった踊り場にネオバロック式の大扉が見えた。 
「この扉の向こうよ。見せたい物があるんだ」
「……見せたい物?」
「さーて。ここが王国の中核”ジオフロント”だよっ」
 ガチャ、ギィィ――。
 大きな扉を両手で勢い良く引き開け、奥へと進むカミュの後に続く。
「……これはッ」
 オォオオォ――……。
 息を呑むジュン。眼の前にはドーム状の空間が広がりをみせていた。
 ゴォォオオ――……。
 摩天楼を彷彿とさせる高層建築物間を磁気浮上式のモバイルが奔る。
 縦横に幾何学模様を描くバイパス空間を流線型の車両群が飛翔する。
「グランドラ地下要塞・ジオフロントよ」
「……地下……要塞……ッ?」
 絶景に息を呑むジュン。地下宮殿と呼ぶには余りにも巨大で荘厳だ。
 大都市を丸ごと地下に再現したかの様なスケール感に暫し忘我する。
「これって、都市開発計画の一環なんだ。スマートシティ化計画だよ」
「聞いた事はあるが……」
 一旦言葉を区切ると、ジュンは胸中に蟠っていた疑問を口に出した。
「この街に……住み込みの家臣は?」
 見たところ歩行者の姿がない。ビークルのフロントにも人影はない。
「んー? ぁたしだけだよ?」
「……は?」
 カミュ王女だけ――? 運用は? システムはどうなっているのか。
 信じ難い面相のジュンをきょろっとした青い眼が真っ直ぐ見据える。
「そっ。ジオフロントはねぇ、完全自律分散型のAI都市なんだ」
「……何言ってんだよ、お前」
 カミュの説明――真意を汲み取るのに、少しばかりの時間を要した。
 慄然と立ち竦み、視界に広がるドーム状の巨大空間を前に絶句する。
「……」
 淀みなく流れる大河を挟み大型の橋梁……恐らく斜張橋が聳え立つ。
 人工的な河川の対岸に群生する大型の円筒形プラントが眼を引いた。
「あれねー。発電所なのっ」
 呆気にとられるジュンの視線の先を追うと、カミュは闊達に講ずる。
「地下活動の基盤の電力インフラ及び国防に、原子力を選んでみたの」
「原子力……だと?」
 遠方に聳え立つプラント群を前に、ジュンは驚嘆を隠せないでいた。
「電力インフラと……まさか、(……国防にも)……?」
「ねぇジュン。タービン発電って知ってる?」
 さして面白くも何ともない、といった素っ気ない眼がジュンを視る。
「核分裂の崩壊熱を使ってぇー……」
「発生した蒸気でタービンを回す……だっけな」
「……へぇ」
 付け焼き刃程度の知識を弄すると、カミュは感嘆頻りに目を細めた。
「廃棄物が新鮮な内なら兵器の原料にもなる、一石二鳥な代物って事」
「……核……兵器……」
 グランドラ王国は鉄壁の地下要塞を隠れ蓑に「核」を開発していた。
 俄に信じ難い事実ではあるが、これならカミュの余裕の説明がつく。
「ジェラルドのモンスター達がどれだけ襲ってきても大丈夫なんだー」
「ッ。……だが……家臣達はどうなる?」
 微かな振動が起きている上層・地上では、今も苛烈な戦闘の最中だ。
「カミュ、お前の大事な家臣達は今も必死に戦っているんだぞッ!?」
「わかってるよ。でも国防はぁたしの役割じゃない。三銃士の役目っ」
「……まぁ、そりゃそうだが」
 一理ある。限りなくドライだが、それは予期された返答でもあった。