ズズゥゥ――…ン。
 相変わらず地上及び城外からは断続的な地鳴りと咆哮が轟いている。
 ぎゃぁぁぁああ……。
 兵達の痛ましい悲鳴が城内まで聞こえてくる。戦闘真っ最中の様だ。
「……ッ」
 一国の王子たる者、直ぐにも救援に駆け付け、剣を奮うべきだろう。
 が、今はカミュのお招きに預かっている最中だ。腹を括るしかない。
「義兄さま早くぅーーっ!」
「あぁ……今、……行くよ」
 コツ、コツ――……。
 祭壇へ歩み寄る過程で見渡す堂内一面にフレスコ画が描かれている。
 濃いブルーの天蓋一体に、光る星々をあしらったプラネタリウムだ。
「……」
「それ、宇宙をあしらった絵画らしーんだよね。義兄さまに解る?」
「……俺の事バカにしてるだろ」
 見れば解る。蒼然たる空間に白く流れる光の帯は天の川、銀河系だ。
「ほらぁ。早くこっちこっちぃー♪」
「……ふぅ」
 嘆息するジュン。数段上がると、祭壇上で待つ金髪少女へと近寄る。
「はいストぉーっプっ!」
「……?」
 今度は何だ? 呆れ眼を向けた先で、姿勢を糺した少女が絶叫した。
「ジャスティン王子っ! 貴方は――っ!」
「……は?」
 驚愕に眼を瞠る。常軌を逸した少女の怪行動がジュンを困惑させる。
 非常通路でロックと別れた辺りから雰囲気が突然変わってしまった。
 それまで可憐で意地らしい一国の王女だとばかり思っていたが――。
「……ッ」
 が――ジュン自信も同類ではある。人の事を無責任に非難出来ない。
 気を強く持つべく頭をブンブンと横に振り、カミュを眇めるジュン。
「病める時も健やかなる時も――っ!」
 祭壇前でカミュが口をパクパクさせている。まるで人前式の誓いだ。
「……カミュ、こんな事をしている場合じゃ……ッ」
「忘れたんでしょ義兄さまっ! だったら――っ!」
 コツン――……。
 直ぐ眼前に歩み寄ると、カミュは不意に踵を上げ爪先立ちになった。
「……ぅッ?」
 視界が近接した少女の美貌で塞がれる。唇が、柔な感触で包まれた。
「……くッ」
「~♪」
 暫しの沈黙――。ジュンは慌てて顔を離し、よろめく様に後退した。
「…………」
「誓いまーす♪」
 ♪~~♪
 すっかりご機嫌の様子のカミュが鼻歌交じりに紅顔をふいと逸らす。
「……チッ」
 舌打ちしてその場を取り繕うが、ジュンは内心穏やかではなかった。
 ジャスティンとの約束、そして愛美の為に異世界にやっては来たが。

 ―― 話が違う ――。

「……」
 抗議の言葉を、そっと胸中にしまい込む。ジャスティンとの約束だ。
 ジャスティンがカミュとそういう約束をしたのなら――甘受しよう。