オォオオォ――……。
 冷えた回廊を進むと、やがて礼拝堂と思しき大きな広間に到達した。
 ゆったり広がる大聖堂。奥まった祭壇の手前に重厚な長椅子が並ぶ。
「……ここは?」
「んもぉ。忘れたの? 昔ぁたしと約束したっしょ?」
「……は?」
 覚えてない。覚えている訳がない。ジャスティン王子では無いのだ。
「いや、悪いが病み上がりでな、……どうにも記憶が」
「あ、そ。そーゆー事にしといたげるよっ。べーっだ」
 あっけらかんとした返事。金髪少女がお茶目にあっかんべーを作る。
「……?」
 疑問符を浮かべるジュン。少し前からある違和感が付き纏っていた。
 当初みせていた狼狽や悲壮感めいた素振りは、今のカミュには無い。
 有事に慣れているのだろうか。それとも何らかの秘策を隠している?
「……で、約束って、何?」
「別にいーよ。無理に思い出さなくっても」
「……そう怒るなよ」
 カミュのつんけんした態度を前にジュンは持て余し気味に嘆息する。
「別に怒ってないよー♪」
 コツ―ン、コツ―ン……。
 ステンドグラスから射光が漏れる大聖堂内を、悠然と歩く金髪少女。
「……ッ」
 後ろ姿から漂う神々しいまでの気品に、ジュンははっと息を呑んだ。
 流石は王女の貫禄か? 何処かバカにしていた節があったのは事実。
 一国を統べているのはてっきり現国王と王妃だとばかり思っていた。
 だが時は変遷する。役割を担い、国の未来を担う責務と役割は巡る。
「……ジャスティン」
 彼が継ごうとしていたのは単なる家督や王家の称号等ではないのだ。
 国と民、家臣を治め、兄(義兄?)としてカミュを護る責務がある。
「ジャスティン義兄さまぁーっ!」
「……?」
 大きな呼び声にはっと我に返る。カミュが祭壇上で手を振っていた。