オォオォオ――……。
壊れた大扉。静まり返った非常通路。各所で喧噪。振動が湧き立つ。
レディなる魔王直属の女剣士が去った回廊内で、佇立する三体の影。
「おぉお――ッ!」
ガッ――。
大きく息を吐くや否や、ロックがジュンの両肩に掴みかかってきた。
「――ジャン王子ッ。無茶はするなとアレ程……!」
「……ッ?」
力強い握力で両肩を掴まれ、緊張の解けたジュンは漸く我に返った。
「……ロック、あの女は何故カミュを狙う?」
鬼面の相を作るロックの老婆心を尻目に、ジュンは冷静に詰問する。
「そんな……ご存知でしょう! 我が王国を滅さんと企んでおるのだッ」
何を今更、という困り顔で、ロックが眉間に悩ましい縦皺を寄せる。
「ジャン王子、貴方も貴方ですぞッ。一国の王子たる自覚をもっと……」
「あーロック。悪いんだけど、あんた先行ってて?」
「ッ? ……はぁッ?」
信じ難いといった面相で、ロックが悩まし気にカミュを振り仰いだ。
「なにを、……この期に及んで一体、何を言っておられるのだッ!」
「ごめんロック。今ちょっとね、義兄さまと二人きりになりたいの」
「……カミュ」
「危険過ぎますッ。今は一国の一大事ッ! どうか弁えて下されぇッ!」
瀟洒な青いドレスの襟を糺すと、カミュは毅然たる口調で言い放った。
「これは命令よっ。貴方は居館へと向かい、陣頭指揮を執りなさいっ!」
有無を言わさぬ断固たる響きを持つ命令に、ロックは渋々項垂れた。
「……くッ。……頼みましたぞ……ジャスティン王子……ッ」
「……」
ロックの睨み眼を真正面に見据えたまま、ジュンは無言で頷き返す。
「……ぅ、……ぐぅう……ッ」
無念の相で身体を小さく震わせるロック。その脚が居館へと走った。

