ザッ――。
 相対する二体の影――。一人は丸腰。一人はレイピアを携えている。
「先ず、そちらの名は?」
「レディよ、義兄さま。レディ・ハートマン。魔王の親衛隊の一人だよ」
 背後から、固唾をのんで成り行きを見守っていたカミュが補足する。
「ジャスティン……カミュをこちらへ渡せ。さもなくば――」
 ヒュン――。剣の切っ先をジュンに突き付け、レディが大口を開く。
「これより貴様は我が愛刀”アロンダイト”の錆びとなる!」
「……抜かせッ」
 ジャリ――。
 握った双拳を眼前に据え、ジュンは臨戦態勢でレディを睨み据える。
 あくまでも演技だ。リーチ・攻撃力……素手で剣に勝てる訳が無い。
「……くッ」
 冷えた空気。額に浮き上がった冷汗が頤を通じて床面に滴り落ちる。
 不思議な事だが、レディが本気で襲って来ないだろう予感があった。
「義兄さまっ! 駄目よ、逃げなきゃっ!」
「ぅ、ぐぐ……」
 背後から、カミュの痛切な叫び声とロックの呻き声が聞こえてくる。
「……バカだな」
 肩越しに背後の少女を眇め、ジュンは口元に淡い微笑を象ってみた。
「逃げないよ。カミュ。お前を護るのが兄(義兄?)である俺の責務だ」
「――ジャスティン義兄さまっ!」
 歓喜に震えるカミュの叫びが、ぱぁっと一際明るくなる。
「ちっ、……虫唾が奔るわ」
 苦虫を噛んだ様に舌打ちすると、レディはやんわりと剣を下ろした。
「……なッ?」
「いいだろう。貴様の男気に免じ、ここは一旦、目を瞑る」
 バサァッ――。
 瞠目する一同を前に、コートの裾を翻すと、レディは姿を眩ませた。