気怠く何時になく重たい瞼を、やんわりと開いてゆく。酷い悪夢に随分と長い期間、魘されていた気がする。
「……」
 長い……とても長い無限回廊を、延々と彷徨い歩いているかの様な――終わりのない果てしなき疲労感が全身を包み込んでいた。
 まるで……時流から隔絶された世界線を、延々と巡回する様な、……例えるならメビウスの環上に迷い込んでしまったかの様な……。
「……?」
 ぐぐ……。辛うじて動く首だけをなんとか回して、辺りを見渡してみた。
 音も光も無い薄昏い空間がどこまでも広がっているばかりである。まさに希望がないと形容するのが妥当だろうか。
「――痛ッ!」
 ずきんッ、と総身を苛む激痛に、ジュンはしかし一抹の安堵感を覚えずにはいられなかった。
 痛覚がある、という事は……まだ生きている、という事でもあり……少なくとも既にあの世にいる訳では無い、とう理屈が成り立つ。
「……ぅ」
 ぐぐ……。ずきずき痛む上体をゆっくりと起こしてみると、血染めの包帯で己の全身が覆われているのが視認できた。
「……?」
 忙しなく瞬目する。大怪我をしたような覚えは、――無いハズだ。 いや、それどころか、……自分が何者だったのかすら、思い出せない。
「痛ッ……」
 ズキン――ッ。漣の様に押し寄せる中でも一段激しい頭痛が、またしてもジュンの思考を阻害する。
 まるで記憶の一部を勝手に改竄されたかの様な、如何とも形容のし難い……”記憶に霧がかかったかの様な”状態に近かった。
 一体、自分は何者なのか。何故ここに居るのか。この全身の怪我は、何があったこうなったのか――。痛みの試練に耐えながら、懸命に記憶を手繰りよせていた、その時、何かを叩く様な微かな音がした。