Excalibur

 ダダ――。特設ステージに駆け上がるや否や細身の男は声を張った。
「大丈夫、何時もの荒くれモンスター共だッ。落ち着けッ!」
「はぁ? マジかよッ」
「んだよッ、ハッ、雑魚モンスターかいッ!」
 集ってきた若集が威勢よく手持ちの武器を振り回し、気運を高める。
 ざわ、ざわ……。どよめく場内。ロックの喝が、混乱を鎮静化した。
「っはーっ! 何時もの雑魚モンかィいっ!」
 居館へと続く緊急避難通路の陰から、小太り男がぬっと顔を出した。
「――せやったらワシらに任せとかんかィいっ!」
 どん――っ!
 歌舞伎の舞踊さながらオッサンが持ち前の太鼓ッ腹を叩きつけると。
 わぁあっ――。
 その場に居合わせた残りの兵達の士気が、たちどころに急上昇した。
「俺が手柄を立ててやるッ!」
「いや待て、俺が先だッ!」
「抜け駆けなんてズルぃいッ」
 わぁっ――。
 士気が上がる。活気づいた家臣を尻目に、ロックが駆け付けてくる。
「王子、王女。今の内ですッ。二人は私と来て下され!」
「……あぁ」
 ロックの逼迫した声の響きに急かされ、ジュンは小さく相槌を打つ。
「ぅ……、ぅんっ」
 やや遅れ、カミュが血の気のない蒼白な顔をコクコクと縦に振った。
 カタカタと細かく震えるカミュの身体を、そっと引き寄せるジュン。
「大丈夫だ。俺が――ッ?」
 言いかけて、口を噤む。とあるデジャブがジュンの身を硬直させた。
 確か――。ずっと前にも、今と似たような状況に遭遇した気がする。
「ジャスティン王子ッ?」
「義兄……さま……?」
「……ッ」
 眼前が暗くなった。背筋に浮き立った汗が、じっとりと湿って寒い。
「……」
 繰り返し。延々と。役割を背負わされ、延々と、同じ事の繰り返し。
「……王子ッ! しっかりして下されッ!」
「お義兄さま……っ」
 懸命に自分を呼ぶ声がする。が――、ジュンの耳には届かなかった。
 ジュンは逃げ出したくなった。役割を放棄し、自由な何処かへ――。