わいわい。束の間の宴もすっかりたけなわの様相を呈していた。
 特設ステージ上では、酔っ払った小太り男が歌を熱唱している。
「わぁい、えむしえっ」
 調子っ外れた酷いダミ声だ。他の家臣は何とも無いのだろうか。
「なぁカミュ。アレが国王なのか?」
「えっ?」
 隣で食事をしていたカミュが、びっくりした様にジュンを見る。
「んな訳ないでしょ? あの人、使用人のオッサンじゃんっ」
「……使用人の……オッサン?」
 呆気にとられるジュン。王国に蔓延る闇を垣間見た気分だった。
「どしたの? 黙っちゃって」
「……いや」
 夢を見ているかの様だ。この世界も、一つの現実なのだろうか。
 何処までが現実で、何処までが虚構で構築されているのだろう。
「……」
 考える程に解らなく、深淵の迷路に嵌まり込んでゆく気がする。
 自分が認識している現実は、果たして本当に真実といえるのか?
「……カミュ」
「ん、なに?」
 青い眼差しが凝っとジュンを見る。今この瞬間は本物だろうか。
「……いや」
「……♪」
 躊躇いがちに言葉を濁すジュン。カミュの眼がくすっと笑った。
「……」
 黙考するジュン。自分に命という概念は、あるのだろうか――。
 仮にもしこの世界が、何者かの再構築した偽の世界だとしたら?
「お義兄さまったら。まーた小難しい事考えてるのー?」
「――ッ?」
 ドキンっ。胸中を見透かされているかの様な眼差しに瞠目する。
 カミュの無邪気な笑顔が、一瞬、小悪魔の不敵な含笑に見えた。
「いや……大丈夫……何でもない」
 馴染み薄い異世界で最初に出会った一番の理解者であるカミュ。
 そんな彼女が自分を陥れる理由も、必要性もある訳が無い――。
「だってぇ。思いつめた顔してるじゃんっ?」
「あ……」
 妙に指摘が鋭い。軽い様でいて抜け目の無い不自然さがあった。
「……それよりいいのか、朝っぱらからこんなザマで」
 カチャカチャと食器の音が止まる。青い眼が、クスと微笑った。
「へーきだよっ。最近とっても平和だもんっ!」
「……平和?」
 ジュンは眉を潜めた。様子が変だ。自分の中で辻褄が合わない。
 ジャスティンは、王国が魔王の総攻撃を浴びてると言っていた。
「変な義兄さまっ。箸つけないならぁたし食べちゃうよ?」
 直ぐ小脇から小さな手がにゅっと伸び、ジュンの食事を抓んだ。
「……ッ」
「えっへへー。じょーだんだって♪」
 ひょいと手を引っ込めると、カミュはぺろっと可愛く舌を出す。
「考え過ぎても良い事ないって♪」
「……」
 狐に摘ままれた様な面持ちで、ジュンはげんなりと肩を落とす。