Excalibur



 ドガガガァァ……ッ!!
 一刹那、青い閃光が間隙を縫った。岩盤を砕く破壊音が一帯に反響した。
「……木崎流八極拳、……奥義……」
 巨岩を砕く破壊力は、速やかな捻転から生まれる螺旋の力から生まれる。
「……」
 ゴゴゴゴゴ――……。
 校庭外でゾンビの群れを蹴散らす遥か前線から、ジュンが遠望している。
「――狂乱艶舞陣っ」
 ズバァァ――……。
 流血雨。空を飛び回る黒髪少女は、戦闘に夢中で後陣には目もくれない。



 裏切られたショックの為か、ジュピターは地べたにへたり込んだままだ。
「……」
 バチバチッ――……。
 弾け散る電磁スパーク。青い靄がみるみると霧散し、人型を象ってゆく。
「な、何だよてめぇはっ。ま、まさか、……ぁ、ぁたいの事を……?」
「……勘違いするなよ。お前にまだ利用価値がある、そう踏んだ迄だ」
 ――ギュムゥ……ッ。
 冷ややかな口調で吐き捨てながら、直人は帯電グローブを慎重に嵌める。
「ぅ、……借り一つかよ……くそっ」
「……下がっていろ。俺の後方にな」
 ジャリ――ッ。
 ジュピターを庇う様にして前へ歩み出ると、直人は右腕を頭上に掲げた。
「……特別に相手になってやるよッ」
「っ?」
 瞠目するセレス。一見風変わりな格好をしているが、人間には相違ない。
「電気? へぇ。……地上にこんな人間が居るなんてねぇ」
「……舐めるなよ、侵略者風情がッ」
 ――ゴォンッ。
 片肘を正眼に両足を開き、腰を落とす。陸の船とも揶揄される頑強な構え。 



 オォオォオ――……。 
 一見、近接格闘術の様に見えるが、直人の木崎流八極拳に距離は関係ない。
「さぁ、来いよ……」
 間合いは一瞬で潰せる。纏絲の力で体重の数十倍もの爆発力を生み出せる。
 一寸の隙も排した攻防一体の構え。それが我流で編み出した木崎流八極拳。
「……来ないのか?」
「武道? ……見た事のない構えね……。貴方、流派は?」
「お前が知る必要はない。覚える事もない。何故なら……」
 パチッ、キィィィイイ――……。
 直人の両下腿に、眩しい靄が凝集してゆく。その正体は電磁スパークだ。



 パリッ――。疾駆予定の車線未来図が、身体から放射状に拡散してゆく。
「ふふっ。俄然興味が湧いたわ。ぜひ理由が知りたいわね」
「言われなくとも叩き込んでやるッ。木崎流八極拳奥義ッ」
 ドキュッ。――パァッ。
 輝線が散り、閃光が弾ける。強い衝撃に、セレスは歯をギッと食い縛る。
「ぅぐっ?」
 ――ドボォオッ!!
 鎖帷子ごと陥没させての飛び込み頂肘の一撃が深々と鳩尾に突き立った。
「――ッ」
 硬い――。ガードされた? 或いは――。澱みなく連続攻撃に入る直人。
 ギュルッ――……。強い踏み込みから体軸を半回転させての体当たり技。
「――覇ッ(鉄山靠ッ)!!」
 ドガァアッ!!
 突進・瞬発・捻転力で倍加させた勁力をインパクトの瞬間に爆発させる。
 八極拳をヒントに独自に編み出し我流で会得した木崎流の最大奥義――。
「ッ?」
 ……グニャリ……。
 包み込まれそうな感覚に絶句する直人。スポンジに突進した様な感覚だ。
「……っ。」
 ――フワァッ……。
 浮かぶ爪先。瞠目する直人の眼前で、セレスの身体が宙に舞い上がった。
 


 勁を吸われた感覚。インパクトの衝撃に対して折込み済みの反動が無い。
「……?」
 ――ヴァア……ッ。
 暗転。顔を上げてセレスを追走する直人の視界が、漆黒の闇に覆われる。
「不思議な技。……でも、それだけね」
「ッ!」
 ゴォォオオ――ッ。
 残心する僅かな硬直期を狙い澄ますかの様なカウンターの巨石圧殺攻撃。
「直人っ!」
 キュンキュンッ、――ドガガガガァァアッ!!
 轟音が大気を震わせる。レーザー散弾を浴びた巨岩が空中で粉砕された。
「……?」
 ゴォォオオ――……。
 宙空静止するミリ秒。小首を傾げる美貌が愉し気にディアナの方を向く。
 青髪の少女の傍では、顔面蒼白のアポロンが睨み眼でうずくまっている。
「へ、……余所見か……?」
 薄ら微笑う直人の嘲弄には目もくれず、涼し気にディアナを視るセレス。
「……っ」
「確か、貴女って、……?」
 にっ――。宙に直立浮遊したまま、その口元が意味深な冷笑を浮かべる。



 ――ザッ。
 肩で息を荒げるアポロンの前に立ちはだかる青い髪のツインテール少女。
 その光景を俯瞰の視点で見ていたセレスが同朋に労いの声を投げかける。
「あのディアナ、そんなに強い? だったら代わろうか?」
「……セレス、アイツ、ディアナじゃね……――ぐはッ!」
 ――ドボォッ!!
 深々と突き刺さったディアナのボディブローが、アポロンの口を封じた。
「あら、御免ねアポロン。少し手が滑っちゃったみたい♪」
 ザッ――。
 侮蔑の眼で見降ろしながら、ディアナがにっこりと満面に笑みを湛える。
「貴女がちょっかい出してくるから、仕方なかったのぉ♪」
「ぅ、……ぎぎ……っ。こ、……こんの、……化け物ぉっ」
 グググ――……。
 激痛に身悶えるアポロンを悠然と見下ろし、唇に指を添えてしーをする。
「とどめ、……刺されたくないよね。だったら解るよね?」
「わ、わかって……、たまるっ……――ぎゃぁぁあっ!!」
 ――ドゴンッッ!! ……ドゥッ。
 轟音が反響した。凄まじい力で頭を殴られ、地面に突っ伏して失神する。
「一撃、……だと……?」
「な、何やってんだ……」
 絶句する直人とジュピター。特に衝撃を受けたのは同朋のジュピターだ。
「な、……一体、何をやってんだよっ、……ディアナっ!」
「違うのジュピターっ。ぁははっ。こ、これはねセレス?」
「大体解ったわ、ディアナ。……そうよね、……違うのね」
 ヒュゥゥ――……。
 鋭い視線はディアナに据えたまま、セレスが空から嫋やかに降りて来る。
「……ッ!?」
「な、何だ?」
 突如たる仲間割れに、固唾を呑んで成り行きを見守るジュピターと直人。
「ぅ……ぐッ」
 おぉおぉお――……。
 ディアナの総身から探知する微弱な神霊力に直人は愕然と我が眼を疑う。
「ば、……バカな……ッ」
 嘗てのサンダーや、ジュンなどの解り易い神霊力と違った異質なオーラ。
 アポロンやセレスからは感知されず、地底人特有のオーラとも思い難い。
 なら、この神霊力の正体は、一体、――?



 ドッガァアアア――ッ。
 間断ない無反動砲が矢継ぎ早に爆裂し、ゾンビの群れを四散させている。
 前線でゾンビと格闘中のジュンとアリエスは後陣の方に気を留めてない。
「……アイツも化け物だが、……コイツもなのか……ッ」
 オォオォオ――……。
 歯軋りしてディアナを睨み据える直人。隠しきれないオーラが丸解りだ。
「っ?」
 オォオ――……。……フッ。
 その視線にディアナが気づくとほぼ同時に、神霊力の気配が掻き消えた。
「――ッ!?」
「……でね、セレス。ちょっと相談があるんだけどぉーっ♪」
 弾ける笑顔を振りまきながら、愛想良く同胞に話しかける青い髪の少女。
「なぁに、相談って?」
「んー。相談って程でもないんだけど。私に協力してくれないかなぁー」



 勿体ぶった物言いに、セレスは冷ややかな視線を注いだまま笑顔を返す。
「……ふふっ。……で、どんな相談なの?」
「ぅん。ハーデスを裏切って欲しいのっ!」
 屈託のない、晴天をつく程に明るい美声が、戦場の一帯に響きわたった。
「……ハーデスッ。冥界の王、……だと?」
「く、あの野郎が謀反を企てたのかよっ!」
 ゴゴゴゴゴ――……。
 その直ぐ対面で腕組みをしたまま、セレスが意味深な笑みを口元に象る。



「……面白い提案ね? 考えさせて頂戴?」
「ほんと? ありがと、さっすが部隊長っ」
「……本当に面白い子ね? うふふっ……」
 ぁはははは……っ。
 口許を両手で覆い隠し、さも愉快そうに笑うセレス。その瞳が鋭く煌く。
「避けろバカ、――下だッ!」
「……へっ?」
 直人が叫び声をあげる。緩んでいたディアナの眼が、はっと我に返った。
「――デッドリー・スコルピオンっ」
「……ぅっ!!」
 ズバァアッ――。
 地面から尖った槍が突き出した。後方に跳躍し、紙一重で躱すディアナ。