Excalibur

 タタタ――……。
 散らかった視聴覚室、刹那の思案に惑う一同の元に足音が近づいて来る。
「ねぇー、ジュン? 誰か来たっぽいけどぉーっ?」
「ッ? ……だな。ゾンビじゃなければいいが……」
 唸り声がない事から察するに、普通の人間の様だ。が、油断は出来ない。
「はぁ~? まぁだ生き残りがおるちゅぅんかッ?」
「もう駄目ですぅ~。ボクたち、きっとここでぇ~」
「諦めるなッ。俺達はまだ生きている、……だろ?」
 ジュンの檄に、眼を潤ませる安田。傍では腕組みした下洗が頷いている。
「そうじゃッ。まだ諦めるんは早いちゅう事っちゃ」
「ぅ、ぅぅ……、不安ですよぅ~、下洗先生ぃぃ~」
 無言で肩をポンポン叩き、下洗が安田を安心させる。担任の風格が滲む。
「しっ、ぁんた達、来るよっ」
「……ッ!」
 チャキ――ッ。 
 握った銃身を静かに伸ばすジュン。解放されたドアに眼を凝らす、直後。
「待て、撃つなっ! ぁたい等だッ!」
「――ッ!?」



 ――ザッ。
 くゆる硝煙の只中から現れたポニーの女には見覚えがあった。が、――。
「……お前、もしかして、……ディアナ、……なのか?」
 その横に佇む青い髪の少女に眼を奪われるジュン。紺色の独特な戦闘服。
 間違いがなければ、嘗ての大戦でジュンをそっと介抱してくれた少女だ。
「……ぇ、あぁっ、……お久しぶり、……ね、ジュン?」
 しどろもどろな返答をするディアナ。幾分、混乱している様にもみえる。
「……ッ!?」
 違和感を感じた。自然な挙措とは言い難い、何か、計算された不自然さ。
 記憶の中に息づいているディアナと、……何かが違う様な気がする――。
「あぁ、久しぶり、というより、一万年ぶりくらいか?」
「はあ? ンな訳あるけッ! 何寝言抜かしとんじゃッ」
「……っ。それよりもジュン、……この人達は……っ?」
 取り巻きの二人組を、青い冷めた眼差しでディアナがじろりと睥睨する。



「こちらは俺の担任の下洗先生、こちらが友達の安田だ」
「ぅ……っ、は、はじめましてぇ……や、安田ですぅぅ」
 ――キラリ――。
 先までの弱腰が一転、ディアナの姿を前に、安田が邪に眼鏡を光らせる。
「……ん?」
 ――キュッ。
 ミニスカートの裾をあざとく捲り上げながら、不快そうに呟くディアナ。
「ふーん。愉快なお友達が増えて良かったんじゃない?」
「この状況じゃ、そーも言っていられないが、……だな」
 こうして喋っている間も、ディアナの目はジュンに釘付けになっている。
「……ッ!」
 ジュンの眼が、……ディアナに向かう。腹の探り合いに似た嫌な感じだ。
 以前の、安心感やくつろぎを感じられた優しい気配とは、――妙に違う。
 心中が、妙にざわつく様な……。落ち着かない、気の抜けない感覚――。
「……ッ?」
 刹那、ジュンの脳裏に、カミュの覇道血界が浮かび上がり、……消えた。
 カミュの覇道血界内部で、ジュンは血の滲む様な辛酸を舐めさせられた。
 その時の、あの苦い記憶や感覚が、――……今になって、何故――……?



「つーかぁ、ワシ等ぁ助けに来てくれたンじゃろぉな?」
「ボク達の敵、……じゃなさそうですしぃ……、味方?」
 男二人がひそひそ話に興じる最中、ジュピターが甲高い声で喚き散らす。
「おぃおぃ。ジュンはともかく、この変な女は誰だよ!」
「駄目だよジュピターっ。この子は、ぁっ、……ぃぇっ」
 咄嗟に口を噤むディアナ。背後の空間から、ただならぬ気配を感知した。
『な、……何、どうしたの、直人?』
 カチカチ――ッ。ネイルチップでの問いかけに、何時もの即レスがない。
『……っ!』
 背後で感じていた直人の気配が、――止まっている。絶句している様だ。
『っ。あぁ、そうか……。誰か、知り合いが居たとか?』
『……、ぃ、ぃや、……人違い、だろうと、思う、……』
 シーン……。
 場に漲っていたざわめきが、――無音に変わる。暫しの妙な間があった。
「ふーん。まぁ~た変な奴が加わった。まーい~けどぉ」
「……ん? 変な奴って? お馴染みの二人だけだろ?」
 ジュンの問に真面目に応じず、茶目っ気たっぷりにはぐらかすアリエス。
「ぅーん。でもないんだよに~。解んないならいーけど」
「……?」
 アリエスは、霊体リリスを依り代に一時的に憑依させ、実体化した存在。
 依り代には専ら死者の肉体を使うが、時に、まだ息のある者も使用する。



 カシュ、カシュカシュ――ッ。ディアナの背後で、コイン音が復活した。
『……バレた。が、何故か俺の存在を周囲に伏せている』
『へぇ。ならその子、とっても優しい子なんじゃない?』
 直人とディアナ、二人の間だけ伝わるモールス会話が、厳かに進行する。
『……あぁ、だと、いいけどな……。まだ、確証がない』
『ふーん。何の確証? まぁあまり深くは聞かないけど』
『あぁ、それでいい。……助かる……』
 ゴゴゴゴゴ――……。
 背後の空間から、気のせいか何やら感極まっている気配が伝わってくる。
『らしくないなー。ジュンはいいの?』
『あぁ、……どうでもいい。今は、な』
「……♪」
 オォオォオ――……。
 空間のある一点に好奇の視線を注ぐアリエス。彼女には全部見えていた。
 ディアナの背後で、懸命に動揺を抑えつけるフード姿の男の姿が視える。
「ふぁ~ぁ……♪ ん~……」
 青い靄から眼を逸らし退屈そうにあくびをする黒髪ツインテール美少女。
 直人の素性にまるで興味が湧かない。彼女にとって男は俗物に過ぎない。