
ドッゴォォ――……ッ!!
青凛学園二F――。対角線上に位置する視聴覚室の近辺で爆音が轟いた。
「あの喧しい爆発音、ルシファーかい?」
「多分ね、パンツァーファウストっしょ」
「かっくぃ~ネーミングだねぇ~。ぁたいのサンダーボルトが恥ずかちっ」
「そんな事ないよ。ジュピターの必殺技だってぜんぜん格好いいと思う!」
粉塵舞う薄暗い回廊内、いじけるジュピターをディアナが懸命に宥める。
カシュ、カシュ――ッ。二人のやや背後から、コインの擦過音が鳴った。
『……ジュンが居るなら、合流すべきだ』
カチ、カチッ――。ネイルチップを擦り合わせて、ディアナが即答する。
『へぇ。アイツに会いたいんだ。意外ね』
すました顔で得心するディアナ。直人を涼し気に眇める眼は冷えている。
『…………』
カシュカシュッ――。逡巡する指が、躊躇気味にコインを擦り合わせる。
『戦力は、少しでも多い方がいいだろ?』
『まー確かにそーかもね。ぅん。解った』
すんなり了承するディアナ。その口ぶりや態度は、ジュンと旧知の様だ。
過去、直人が生誕するよりずっと前にあった出来事を、直人は知らない。
時代的背景、人物相関図、積み重ねた経験値量が、――絶対的に少ない。
『……くッ』
リストこそ持ってはいるが、地底に潜伏していた彼等はほぼ未知の相手。
素性も能力もブラックボックス。初見で瞬殺される可能性もなくはない。
地表と違い、地底は幾度かの滅亡を免れている。技術や文明も上だろう。
『…………』
とすると、――当然、ハイテク兵器を標準装備している可能性も高まる。
先のディアナの荷電粒子砲にも似た兵装を鑑みるに、油断は禁物だろう。
潜伏していた彼らがこの機に乗じ侵攻を始めたなら、地表滅亡の危機だ。
シュル……――ガチィッ。
すぅと大きく息を吐くと、ディアナはミニスカートの裾をたくし上げた。
「ジュピター。騒音のあった場所まで行こう。ジュンと合流するよ」
「オッケー♪」
タタタ――……。
瓦礫の堆積した地点を迂回して、別ルートから合流を図る二人の異星人。
『…………ッ』
その背後を、空間を歪ませながら、迷彩フードを被った直人が追従する。

オォオォオ――……。
晴れゆく硝煙の中を、いがみ合う視聴覚室の四人。状況は膠着していた。
「何やてぇッ!? 何処にも逃げたらアカン言うんかいやあッ!?」
「まぁ落ち着けハゲ。おいアリエス、駅前広場だっつッてたよな?」
「ぁ、ぅん。そーだけどー? ……ふぁ~ぁ……っ。眠ぅーい……」
間延びしたロリ声があっけらかんと応える。退屈そうに伸びをする少女。
「アリエスちゃん、暇なの? 良かったらボ、ボクと、遊ばない?」
「んー。今はちょっとパスかなぁー。そんな気分じゃないしぃ~~」
ふぃん……。
宙空に浮きあがり、眼を擦りながら、蠱惑的な姿態を惜しげもなく晒す。
「レディとジャッカル。ソイツ等と待ち合わせしているンだよな?」
「ふぁ~ぁあ。……そーだけどー……?」
気怠そうにあくびをする少女。眠いのと、退屈なのと、両方なのだろう。
ワームホールの行使には膨大な魔力を消費する。その魔力の源泉は……。
「ねー、ジュン。ぁたしとってもお腹が空いちゃったんだけどぉっ」
「あ? 食い物くれってか? ……ちょっと待ってろよ、確か……」
ごそごそとポケットをまさぐるジュン。食べ残しの飴玉が残っていた筈。
「嬢ちゃん、早うワシを送ってぇなッ。ずっと待っとんじゃからッ」
「ぁー。御免ねオッサン、今、アリエスちゃん眠たいからぁ~……」
うみゃぁあ……♪。
猫が顔を毛づくろいする様なあざと可愛い挙措でアリエスがはぐらかす。
「ほらよ、飴玉一個残ってたぞ。これ食って元気だせ。あとよ……」
オォオォオ――……。
ジュンの顔つきが、何時になく真剣みを帯びる。切れ長の双眸が煌いた。
「駅前広場は却下だ。交戦中である可能性が高い。……解るよな?」
「んー。何でー? ぁたしが居た時は、まだ平和だったけどぉー?」
「ッ!? いや、……ダメだな。連中にはこの場で待機して貰おう」
だとしても――、時差も考慮すると、事態が急変している可能性が強い。
「え、えぇーっ? そんなぁ~。ボク等も連れてってよぉ~~っ!」
「おぅぃジュン坊、ワシ等だけこの場に置き去ろうってかぁあッ?」
「――違うッ!」
ザッ――。
男二人に向き合うと、正面から眼を見据え、ジュンは毅然として断じた。
「そうじゃないッ! 避難先が安全だという保証が無いからだッ!」
「な、……なんじゃそりゃあッ!?」
「えぇ~っ? そ、そんなぁ~っ!」
驚愕が、――戦慄に変わる。置かれている窮状を、直ちに理解する二人。
「いいか、生き延びたければ、他の安全な場所に身を隠すんだッ!」
「ぷっ。ジュンってばさぁ、ほ~っんと、お人好しさんだよに~♪」
……ふぃん……。
宙空で寝そべりながら、叱咤するジュンをアリエスが愉し気にからかう。



