Excalibur

 ぐぎゃぁあああ――ッ! ズズゥゥ――……ン。
 黄昏の空を断末魔の絶叫がつんざく。片っ端から倒れ込む異形の集団。
「なぁにやってンのぉ。ったく世話が焼けるンだからぁ~」
 ヴゥ――……ン。
 空間の一角が歪み、間延びした能天気な萌え声が、ジュンを嘲弄する。
「じゃぁーんっ!! 美少女天使、アリエスちゃん只今参上っ♪」
 紺色のハーフトップに、光沢ある黒のショートレギンスを履いた軽装。
 手を腰に添えたロングツインテールの黒髪の少女が宙空に浮いている。
「……アリエスッ?」
 レディの召喚が間に合ったのか、あの世から限定的に舞い戻った様だ。
 その正体は魔令嬢リリス。記憶を一部喪失し、詳細な生い立ちは不明。
「ほらぁ。なぁにぼやぼやしてンの? ジャッカルが待ってるよ」
「……ケッ、そうかい、……アイツに言われて来たのかい……?」
 登場のタイミングが良過ぎる。恐らくジャッカルに頼まれたのだろう。
 照れ隠しに偽悪的な手法を取るやり方は、如何にもジャッカルらしい。
「え~っ? もしかして拗ねてるのぉー? うっそだぁ~っww」
「あぁ、……だけど、拗ねちゃいないよ……。寧ろその逆さ……」
 ぐぐぐ……。震える上体を起こしつつ、膝立ちで体勢を整えるジュン。



 ドチャ……。一面、血の海でゾンビの山。まるでスプラッター映画だ。
「ッ。ったくよお前ら、手加減ってェもんを知らねェのかよ……」
「ん? ぁたしは幽霊だよ? 手加減なンてわかる訳ないじゃん」
 あざとくWピースサインをとって、あっけらかんと開き直るアリエス。
「……そーゆー問題じゃねーだろ……。まぁ、何だ、サンキュー」
 愚痴りつつも感謝の意を示すジュン。助けて貰った事に変わりはない。
「ん。わかれば宜しい。んじゃ、とっとと駅前広場まで飛ぶよー」
「運んでッてくれンだろ? 謎の亜空間移動ッて奴で、……ん?」
 肝心な事を忘れていた。そういえば、あの変な二人組は、何処へ――?
「ん。なに? 何か見つけた?」
「いや、アイツ等はどうした?」
「えー。アイツ等ってぇーっ?」
 キョロキョロ辺りを見渡すと、アリエスは牙を見せにんまりと微笑う。
「ロープで下まで降りてった奴等なら見たけど?」
「アイツ等も助けねぇと! 見捨てらンねェッ!」
「……お節介焼きさんだねー。んー。わかったよ」
 フィン……。ジュンの傍まで降りてくると、アリエスは背中を向けた。
 身の丈五フィート。小柄な身体。抱き易そうなスリム体型をしている。
「掴まってよ。くびれてるから持ち易いっしょ?」
「……ん。まぁ、確かに。こうして、……こう?」
 ぐ、ぐぐ――、……ガッ。
 背後からくびれたウェストに両手を回しロックする。良い匂いがした。
「ちょっ、何処掴んでンのよ? 強くしないでっ」
「……喜んでる様に聞こえるが、……大丈夫か?」
「ば、ばかっ! ぁたし、変態じゃないからっ!」
 ヴゥ――ン……。
 展開された漆黒のワームホールが、アリエスとジュンの姿を呑み込む。



 直後――。
 ――バァンッ! 衝撃波が発生し、学園内部に放り出される二体の影。
「さ、着いたよっ」
「はやッ、ぐッ?」
 ドゥ――ッ。驚きも束の間、落下して床面に身体を打ち付けるジュン。
「痛ッつぅ~……」
「ぁは。お約束♪」
 オォオォオ――……。
 真っ暗な教室はぬかるんでいる。窓から下を覗くジュン。二階の様だ。
 その真下は校庭だ。異形の集団が闊歩しており、逃げ場は無さそうだ。
「あの二人はッ?」
「ほら悲鳴だよっ」
 ぎゃぁぁあああああ――……。
 薄暗い回廊を曲がった奥から、恐怖に満ちた男達の絶叫が響いてきた。
 一階への退避は無理だと諦め、どうも窓から二階へ避難したみたいだ。
「……アリエスッ! フォロー頼むッ!」
「はいはーい。わっかりましたよぉーっ」
 ――ダッ。
 気の抜けた棒読みで返事するアリエスを残し、現場に駆け込むジュン。
 ゾンビ連中とは違う。安田も下洗も、まだ生きている。助けたい――。



 ダダダ――ッ。駆け走るジュンの後に、宙を飛ぶアリエスが追従する。
「ねー。ぁたしも合流しなきゃいけねーんですけどぉー」
「まぁ落ち着け。お前にはまだ俺の傍に居て欲しいんだ」
 後ろも見ずにアリエスを説得するジュン。下洗と安田を放置出来ない。
「はー。自分だけズルーい。怒られるのこっちなのにーっ」
「……ハゲッ。眼鏡、待ってろッ! 今そっち行くぞッ!」
「……ばーか」
 ダダダ――ッ、キュッ!!
 廊下の角を曲がり急ブレーキをかけるジュン。直ぐそこに集団が居た。
 ――ぐるるるるるxxっぁぁああ――ッ!! 獣の様な咆哮が轟いた。
 ドンッ、ドンドンッ!!
 施錠されたドアを抉じ開けようと、異形の群れが身体をぶつけている。
「ひぃいぎゃぁああああっ」
「じゅ、ジュンくぅ~んっ」
 ドア奥から漏れてくる情けない悲鳴は、担任と眼鏡のモノに相違ない。
「……チィッ……」
「手伝おっかー?」
「いぃや俺がやる」
 ガチンッ、――ドゴォオオッ!!
 派手に炸裂した無反動砲が、屯する群衆を木っ端微塵に吹き飛ばした。
 ゴォォォォオオオ――……。くゆる硝煙を振り払い、先を進むジュン。
「おい、ハゲぇッ、安田ぁッ! ――俺だ、ジュンだッ!!」
「……じゅ、ジュン君? ほ、……本当にジュン君なのっ?」
「ぅおおおッ! ジュンちゃぁあん待っとったでぇえッ!!」
 ドン、ドンッ、――ドガぁッ!!
 施錠されたドアを体当たりで抉じ開けると、ジュンは中に転がり込む。
「助けに来たぞッお前らッ、さあこっから脱出すんぞッ!!」
「おおおーーッ!! その言葉ぁ待っとったんじゃああッ!」
「じゅ、ジュン君っ! ついていくよ、どこまでも君にっ!」
 いよっしゃぁあああああ――……ッ。
 起き上がるジュンを即座に囲い込み、意気軒昂と円陣を組む二人の男。
「はぁ~、ばぁ~か。……ま、そこがアイツのいい所か……」
 その姿を後ろから冷ややかに睨み据えながら、嘆息を漏らすアリエス。