ドシーン。振動一つ。絢爛な装束を纏った男が床面に突っ伏す。
ざわわ――。
ロビーに集まった家臣達の動揺の眼が、壇上の二人に集まった。
「っ! ご。ごめんなさい義兄さまっ」
我に返ると、カミュが場を取り繕いながら愛想笑いを振りまく。
「皆さんっ、な、何でもありませんからっ」
「……」
腫れた頬もそのままに、黙然と立ち上がりながら失言を詫びる。
「……すまなかった。一国の王子にあるまじき無礼……」
「っ! 義兄さま」
馬鹿正直な”詫び”の態度に、カミュの美貌がぱぁっと綻んだ。
「ごごご、ごめんなさいっ」
羞恥に頬を染めながら、カミュがお茶目にペロリと舌を出した。
「義兄さま、病み上がりのお身体だというのに……ぁたしったら」
「……」
笑いながら謝られても説得力に欠ける。ジュンは肩を落とした。
「っはーっ! こりゃぁエエもん見せてもろたでっ」
最前列に陣取っていた小太り男が、華麗に指パッキンをキメた。
「おっさん。喜ぶな!」
「あだあッ! ……ぬぐぐ」
隣の小娘に腿をつねられ、血走ったギョロ目に変ずる小男――。
「ところで……俺の挨拶……まだなんだがな……」
「あ。そ、そうだったねっ」
ジュンの背後に後ずさると、カミュは活発な美声を張り上げた。
「お待たせしましたっ! ジャスティン王子の朝礼ですっ!」
「……」
シーン……。
ゆったり広いホール内。静まり返る一同を、ジュンは見渡した。
甲冑や魔導服を着込んだサマはまるでコスプレ会場にもみえる。
「……っ」
「……!」
皆、一様に食事の箸を止め、王子の復帰後一声に注目している。
「ほら。義兄さま早くはやくぅっ」
カミュに小さく背中を突っつかれ、ジュンは小さく口を開いた。
「王子のジャスティンだ。……国政に復帰する。皆、宜しく頼む」
どっ、わぁぁああ――。
沸き立つ場内。四方から割れんばかりの拍手と喝采が湧き立つ。
「だーはっはっは。おい皆の衆ーーっ!」
ガタン。椅子から立ちあがった小太り男が、ダミ声を轟かせた。
「若君復帰のお祝いも兼ねて、今日は朝から無礼講じゃーーっ!」
おぉおぉお……。わぁああ――っ。
どよめきが歓喜に変わる。小ホールが熱狂の渦に包まれてゆく。

