Excalibur



 ドンドンッ! ドガァッ! 反復的にドアを叩く衝突音が続いている。
 拮抗していた建屋の鉄製ドアだったが、いよいよ押し開けられそうだ。
「おどれジュンっ! その銃何の為にあんねやッ!」
「ジュンさんっ! これ以上は持ちませんよぅっ!」
 ドアに身を預けて必死に侵入を防いでいた二人の男も限界が近そうだ。
「……チッ、……仕方ねェ……」
 ――スゥ……。
 舌打ちすると、ジュンは銃身を握り締めた左腕を、真っ直ぐに伸ばす。
 周囲の状況から察し、異変は校内のみならず街全体に及んでいる様だ。
 人外の様な唸り声、挙動から推察するに、既に人間ではないのだろう。
「うおッ。もぅアカンぞ! 喰われてまうぞぉッ!」
「うひゃぁあっ! ジュンさん、後お願いしますぅ」
 バンッ! ドドォォ――……。
 揃って逃げる二人。同時に勢い良く開いたドアから集団が雪崩れ込む。
「がるるうるぁああああッ」
「あぅあぅあぅああああッ」 
「ぐるるるるぉぉぁああッ」
 ドドドォォォォォ――……ッ。
 人ならざる奇声を発し雄叫びを上げて、異形の集団が走り込んでくる。
「……――ッ!」
 ガチンッ、……――カッ!!
 切れ長の双眸が見開かれ、眩く光った銃口からエネルギー弾が迸った。
「――爆裂無反動砲(パンツァーファウスト)ッ!」
 ドゥッッ――ドッガァアアッ。
 炸裂音と共に爆ぜる弾丸。爆風の煽りを受けた集団が吹き飛ばされる。
 衝撃波を浴びた屋上の建屋周辺一帯が粉微塵に吹き飛び更地と化した。
「な、……なんじゃ、……なんじゃこりゃあッ!?」
「ひぇっ、や、やっべぇっ……、……エグすぎぃっ」
 ゴォォォォオオオオ――……。
 ペタンと床の上に腰を落とし、紅蓮の業炎を前に絶句する安田と下洗。
「……この感じ、……ハーデスか。あの野郎……ッ」
 ガチャ――ッ。
 銃身を下ろし、眇めた眼を街全域に馳せる。何処かに、あの男が居る。
 ネクロマンサー、ハーデス。嘗ての戦闘でジュンを苦しめた呪術師だ。



 カキィ――ッ。響く鉤の切っ掛き音。一体の影が屋上内へ飛んで来る。
「……ッ!?」
 ヒュォ、――トッ。
 慎まし気に着地した黒い影がジュンの眼前で伸びる様に立ち上がった。
「ジュン、準備いいか」
「……ハーデスだろ?」
 同意を促すジュン。羽織った学ランを靡かせながらジャッカルが嘯く。
「いや複数だ。確かあの連中ってよ、連携が異様に上手かったよな?」
「……コンビネーション攻撃、だと? なら、他にも、……仲間が?」
 小さく頷きながら、ジャッカルがクックッ、と甲高い哄笑を漏らした。
「どうやら地底に巣食ってた連中が攻勢に出た様だぜ。愉快だよな?」
「ッ。ジュピターが転入して来たのがつい先日。前兆だったのか……」
「そーいや居たッけな、……ンな奴もよォ……」
 キュルルル、――パンッ!
 射出したリールワイヤを手許に戻しつつジャッカルが戦況を説明する。
「今、義姉さんが幽霊女を呼び寄せてる。カミュはどーせ不在だろ?」
「アリエスを……? あ、あぁ……、不在だが、……何故分かった?」
「あのガキが単独行動取るのって、大抵、何かの前触れン時だよなぁ」
「……――ッ!?」
 バイクで高速を走っていた時、紅い発光体に襲撃された事を思い出す。
 てっきり撒いたものとばかり思っていたが、もしやあの時、既に――?
「あのガキよぉ、あー見えて健気な所があンじゃねーのか?」
「……ッ」
 自分を危機から護る為に、既に手立てを? だとすれば申し訳がない。
 ギッ――。歯噛みするジュンを、ジャッカルの軽口が飄々と揶揄する。 
「一途じゃねーか。なぁ? まぁ義姉さん程じゃーねェがな」
「月の住人、……他の連中の特性とかさ、まだ覚えてるか?」
 はぁ、と半ば呆れ気味に嘆息しながら、学ランの襟を糺すジャッカル。
「あぁ。お前ェは物忘れ酷過ぎンじゃねーか? さぁ行くぞ」
「俺はいーが、つッてもじゃぁ、こいつ等はどーすんだよ?」
 眼で示した方向に、へたり込む眼鏡男と太鼓ッ腹の二人が震えている。
「おぃテメーらぁ、ワシ等ぁ置いて何処行こうッてんじゃあ」
「こんなハゲと置いてかないでぇ~。ボクも連れてってよ~」
「この体たらくだぞ。俺にお守りさせようッてェんじゃ……」
「……ぁ?」
 二人の男を冷ややかな眼で一瞥すると、ジャッカルはそっぽを向いた。
「知るかよこんな荷物。先に行ってンぜ。義姉さん達が待ッてンでな」
「ちょっと待てよ! テメーの事ばッか考えてねぇでたまにゃ……ッ」
 ――ドム……ッ。
 ジャッカル怒りのボディブローが深々とジュンの脇腹に突き刺さった。
「――ッ? ……がッ、は……ッ!?」
「戦争中だぞ? 甘えた事抜かしてンじゃねーよバカが」
「……ぅ、ぅぐぐ……ッ」
 凄まじい破壊力に、悶絶するジュン。正直、……悪魔王を舐めていた。
「ヤらなきゃヤられンだ」
 蹲るジュンを侮蔑も顕に見下ろしながら、捨て台詞を吐くジャッカル。
「ジュ。ジュンちゃん!」
「じゅ、ジュン君……っ」
 ダダダッ――、……シュザッ。
 取り巻き二人に囲まれるジュンを置き去り、ジャッカルは姿を眩ます。
「わ、ワシ等ぁ置いてくなやッ!」
「武士君のっ、薄情者ぉ~~っ!」
「ぅ、……ぅぐぐ……ッ、……ッ」
 壊れた建屋。更地と化した無人の屋上に取り残される三人の男衆――。