Excalibur



 ギャーギャー!
 相変わらず騒がしい青凛学園だが、今夕は少々事情が異なってみえる。
 聞こえてくる悲鳴や喧騒は、何時もの放課後のバカ騒ぎと、やや違う。
(……)
 誰かが花火遊びにでも興じたか。下階から、白煙が上がっている様だ。
 辺り一帯を覆う空気がどんより暗い。何時もの漲っている活気がない。
 ウーウー。遠くでサイレン音が鳴っている。街中がぼんやりと明るい。
 街全体が何やら妙に静まり返っている。青海市に、何か起きたか――?
「……?」
 むっくり起き上がり寝ぼけ眼を屋上建屋に向ける。ドアが壊れていた。
「……」
 どうやら騒がしい連中が屋上でひと暴れした様だが、むしろ好都合だ。
 少なくとも以前みたいに内鍵をかけられ、閉じ込められる心配はない。
「……帰るか……」
 フェンス際まで歩き、青海街を一望する。この景色だけは好きだった。
 黄昏に映える街の煌めき、バイパスを行き交うビークル、無数の灯り。
 一個の生命、集合意識体――。直感的にその事実を認識させてくれる。
「……」
 今夜もカミュは恐らく不在だろう。特に帰路を急がずとも良さそうだ。
 居れば居るで賑やかだが、一定の手間暇がかかる。心の安寧は欲しい。
(……やれやれだ……)
 ジオフロント深部で何をしているかは知らないが、干渉する気はない。
 今は自分に何やら好意を抱いている様だが、もとは敵対していた仲だ。
(……)
 ほとぼりが冷めたらまた向こうから現れるだろう。好きにすればいい。
 人間と違って寿命の概念はない。時間という制約に縛られる事もない。



 ドカドカッ――……。
 階段を駆け上がる靴音が屋上に接近してくる。――どうも集団の様だ。
「なんでワシがお前なんぞ背負わなあかんねやッ!」
「ひぃぃ~……。怖くて足が動かないんですよぅ~」
 逼迫したダミ声と、か細い声がせめぎ合いながら屋上に向かって来る。
「……?」
 声のトーンから察するに、どうも担任の下洗ともう一人は、……安田?
「ぐるるるる……ッ」
「がぅぅぅうああッ」
 ドドドドド――……。
 接近する地響き。直ぐ後から獣の様な咆哮を発する集団が上ってくる。
(……普通じゃねーな……)
 ス――……チャキッ。
 学生服の懐に腕を差し伸ばし、ずっしり冷えたグリップを掴むジュン。



 ――ガシャアンッ!
 黄昏の空の下、大きく叩き開かれた屋上ドアがフェンス網を直撃した。
 ドドォォォ――ッ。
 屋上に上がってくるなり、縺れる様にして倒れ込む太鼓ッ腹と眼鏡男。
「ひっ、……ひぃい~っ」
「早よドア閉めぇやッ!」
「うぁぁあああああっ!」
 ――ドガンッ!
 立ち上がった安田が、決死の体当たりで鉄製の屋上ドアを叩き閉めた。
「おぃいッ、そこの銃刀法違反男ぉッ!」
「……ん?」
 ダミ声を荒げるハゲ男に指名され、ジュンは涼し気な眼差しを向ける。
 担任の下洗と、全体重をドアに預ける男は、安田で間違いないようだ。
「その……持ってる銃で、……撃ってまえッ!」
「ジュン君、早くっ、……僕たちを助けてっ!」
「……あ?」
 二人の様子から察するにどうも緊急事態ぽいが、今一実感が湧かない。
「撃つって、……安田を? あんたを?」
「こないな時にふざけとる場合かいやッ!」 
「わひっ、ぁわわわっ……ぅわぁあっ!?」
 ガンッ! ――ドガンッ! ドガァンッ!!
 眼鏡男が、繰り返されるドアの衝撃で押し飛ばされそうになっている。
「ひぃッ、下洗先生ぇえ~っ!」
「いよいッ、しょぉおーーッ!」
 ドドドド、……――ドゴォンッ!! ダンダンッ、ダン――ッ。
 渾身のぶちかましがドアに炸裂。内部に居た群衆が転がり落ちてゆく。