
キンコンカンコン♪
安っぽいチャイムが校内に鳴り渡り、ならず者共が帰路についてゆく。
「ぎゃっはは。超うっけるぅ~」
「だっしょおッ!? だよな?」
鴨鍋と悪友の小南の二人も、放課後迄にはすっかり意気投合していた。
ざわ、ざわ――……。
並び立って歩き、一時の会話を思い思いに楽しむ青凛学園の生徒たち。
「……ぐるるるるるるるる……」
ふら、ふら――……。
眼つきのイッた一人の浮浪者がはしゃぐ学生の下へと歩み寄ってゆく。
ゴロゴロゴロ――……。
つい先程までは晴天だった青空が、暗鬱たる雷雲に一面覆われてゆく。
「ん? ンだよ、天気が……?」
「おぉい、冗談だろぉお~ッ?」
「お、おい、アレ見ろよ、小南」
「あん? ンだよ鴨、……え?」
騒ぎ立てる悪友に促され目線を向けた先に、血塗れの男が歩いて来る。
「ぐるるるるる……がるるるる」
「お、おいおい、オッサン何の冗談……ぐぎゃぁあッ!」
ガブゥッ、――ブシュゥッ。
血飛沫が舞う。寄って来た男が、突如、鴨鍋の首筋に牙を突き立てた。

キーンコーンカーンコーン♪
「ッとぉ、終業のベルじゃとぉ? お前らぁ命拾いしたなゴるぁッ!」
「べーっだ。ハゲのオッサンとっととくっさいアパートに帰れよーっ」
両の腰に手を当て、あっかんべーをしてハゲ担任を見送るジュピター。
「っ?」
何事かを察知したか、ディアナが辺りをキョロキョロと見渡している。
「ど、どうしたんですかね、空が……、急に……っ?」
その直ぐ背後では、不穏な気配に怖気づいた安田が声を震わせている。
「ん? アレって……、おいディアナ、アレを見ろっ!」
「……っ!」
オォオォオ――……。
屋上から路上を一望する一同。遥か下方に集った群衆が近づいて来る。
「なんじゃアイツ等ぁ~。気色悪ィ動きしてンのぉ~?」
「学生じゃない……? でも、何だか様子が変だよね?」
ガシャン――。
フェンスに顔を接近させて、下洗とディアナが揃って校庭を見下ろす。
「あぁぁぁぁあ……」
「うぅぅぅうぅ……」
オォオォオ――……。
獣の様な唸り声を発する一群が、ゆっくりと、学園校舎を取り囲んだ。
「い、嫌だぁ~、……何だか嫌な感じだよぅ。どうしよぅ~」
「おいコラ眼鏡。どさくさに紛れてぁたいに纏わり付くなっ」
ぐぐぐ――……。
安田に背後から抱きつかれて、迷惑そうに腕を引き剝がすジュピター。
が、――なかなか離れない安田に手こずり、苦慮の余りに顔を歪める。
「だーっ、んだよコイツ。眼鏡っこの癖に硬てぇでやんの!」
「嫌だ嫌だぁっ。あんな変な連中に囲まれたくないよぉ~っ」
「ぅぎぎぎぎ~~……。きぃ~~硬ってェえ~~~……っ!」
カシュッ、カシュカシュッ――……。
内輪揉めする二人を尻目に、無人の空間からモールス信号が送られる。
『ディアナ。どうも連中、只の人間じゃない。逃げ遅れるぞ』
「……んな事、言われても、……っ」
「こないな時に、なぁにごちゃごちゃ抜かしとんじゃぁあ~」
驚愕、或いは狼狽する一同。一部は未だに取っ組み合っている最中だ。

バリィンッ。――ぎゃぁああああっ!!
瓶が割れる様な音が響く。と同時に、下階で痛ましい絶叫が上がった。
「――だめっ! みんな、生徒達が襲われているわっ!」
『チィッ! ディアナ、一先ずここから脱出するぞッ!』
――ダッ。
モールスで連絡を取っていた直人が、屋上の出入口側へと走り出した。
(敵襲? ……にしても何処の誰だ? 皆目解らん……)
――ガシャぁンッ!
ドアを全開にノブを破壊して、内側からロックされる事態を回避――。
「なっ、何だよ今の、超常現象か何かかっ!?」
「ジュピターっ、何してるの、ほら急いでっ!」
ダダダッ――……。
出口へ駆け出す二人の女子学生。見送る安田の眼鏡がキラリと光った。
「下洗先生ぇ、ボク達も早く逃げましょうよぅ」
「えぇいッ! わかっとるわッ! 離れえやッ」
安田に抱きつかれ、鬱陶しそうに引き剥がすハゲ洗。額に汗がにじむ。
「おいお前もっ! 寝とらんで早よぅ逃げぇやッ!」
「スゥー……。スゥー……」
下洗のダミ声を聞いてか聞かずか、ジュンは眼を閉じたまま寝ている。
「もぅだめですっ! ジュン君は諦めましょうっ!」
「えぇいっ! 待たんかぁお前ら、待ってェえっ!」
ドドド――……。
二人の女子学生を追って、下階への階段を駆け下りる下洗ともやし男。

ゴォォオオ――……。
学園の下階の一角で火の手が上がっている。立ち昇るドス黒い煙――。
ぎゃぁああああ――。
時折上がる悲鳴は、学生のものだろう。廊下を走る靴音が響いている。
「雷子さぁーん、どこぉおーっ!?」
「聖子先生ッ! 今行きますぞッ!」
――ダダダ――……。
揃って階段を駆け下りる男衆の下に、血塗れの学生が走り込んでくる。
「ぎゃぁああッ! 出たぁああッ!」
「うぉおおッ、――どすこぉいッ!」
ドォンッ! ――ドドォ……。
太鼓ッ腹男のタックルを喰らい、吹き飛ばされる血塗れの学生達――。
悲鳴も上げずに突っ伏し、その場で足掻くと、直ぐさま身を起こした。
「うげッ!? ゾンビかいやッ!」
「ぁぁっ、……ぁわわわわっ……」
オォオォオ――……。
殺気にも似た禍々しい緊迫感が、階段の踊り場一帯に立ち込めてゆく。
「ぐるるるるるる……」
「がぁるるるるるるッ」
唸り声を発しながら、慎重に輪を詰めてにじり寄る血塗れの学生集団。
「っ。そ、そんな……。なんで……」
その中にクラスメート、――鴨鍋の姿を発見し、はっと息を呑む安田。
「鴨鍋クンっ! どうして……っ!」
「今ぁそれどこじゃねぇじゃろがッ」
ダミ声が動揺する安田を正気に戻す。身体の震えを懸命に鎮める下洗。
教員生活四十年――。こんな異常事態は、これまでに経験がなかった。
「一旦、上じゃ。走れるか安田ぁッ」
「……だめですぅ。もう、あ、足が」
「ッ! ……なンじゃとぉお~ッ?」
スパァンッ!!
束の間の静寂を殴打音が破る。安田の頬ッ面が、真横へと弾け飛んだ。

タタタタ――……。
薄暗い回廊内を、揃って床を踏み鳴らす靴音が、三、……。二つ――。
「はぁ。はぁ。だめ、……見失っちゃったみたいっ」
「だぁーっ。あのハゲと眼鏡、見捨てンのかよっ!」
膝に手をつき、荒げた呼吸を整える異星人の二人。背後で、靄が蠢く。
『……』
足音や微細な物音から、直人には、はぐれた二人の所在が解っていた。
が、――初対面のあの二人とは何の関係もない。救う道理など、ない。
ジュンにしても然り。ディアナもジュンに関しては完全スルーだった。
(……ネクロマンサーか? この時代に呪術とは……)
オォオォオ――……。
以前、国防総省に仕掛けたバックドアからサーチした異星人ファイル。
中でも際立った約十五名の主要な異星人中、どの能力者なのか不明だ。
例えば、ジュピターが必ずしも雷撃系統の技のみを使うとは限らない。
(……)
現に、水属性らしきディアナですらその片鱗を未だ垣間見せていない。
刻一刻を争う緊急事態だ。この機に乗じて、本願成就と洒落込みたい。
←目が覚めた……

