
直人の視線が、喚く雷子から無防備に寝そべるジュンへと向けられる。
(ッ!)
ギギ、ギ――……。
シュゥゥ――……。硬く、握り締めた両の拳から立ち昇る狼煙の一条。
「……」
目下の所、ジュンは直人のターゲット項目から一時的に外されていた。
その理由は……。第六感ともいえる危機察知能力だけでは、なかった。
『アイツは放っときゃいいよ。私達の抗争にはぶっちゃけ関与してない』
トッ、トトッ、トトトッ――……。
チタン製ネイルチップが、ミニスカートのホック部を不定間隔で叩く。
『……何故、そんな個人的な内部事情が、異星人であるお前に分かる?』
直人とディアナの間で、秘密裏の会話はモールス通信で行われていた。
ディアナはネールチップで。直人は二枚のコインを擦り合わせる音だ。
『私は地底から来たって言ったでしょ? 君より長く生きてるんだけど』
『つまり、……ババァ、って事を、わざわざ自分から言いたいってか?』
『……っ!』
ブチィッ――……ストンッ。
ホック部が壊れ、力任せに引き千切られたミニスカが石床上に落ちる。

「ええっ!? 何やってンだよ、お前っ!?」
「あ、……ちょっと、暑いかなぁ~って……」
愛想笑いではぐらかすディアナの対面で、安田の眼鏡が鈍い光を放つ。
「ですよね。暑いっすよね? 分かりますぅ」
「ンな訳あるかあっ! この露出狂女あっ!」
喚きたてる雷子の傍で、眼鏡を指で押し上げながらクールを装う安田。
「暑いのは、今のボクのハートもなんですぅ」
ス――……。
懐からそっと取り出したスマホのフラッシュが、パシャッ。発光した。
「ぇ? なに? ちょっと貴方、今なにしたの?」
「眼鏡っ! てめーディアナを撮っただろっ!?」
「そんなの知りませんよぅ~。ボクはただ……っ」
きょどって誤魔化す安田だが、女子学生二人の追及を浴び根負け――。
「ただそこに、――魅力的な女性が居たからっ!」
「っざけんなよ眼鏡! てめー警察呼ぶかんな!」
「慰謝料請求してい? ね、もぉ超~許せないっ」
「……~~ッ!!」
ダダダダッ――……。
騒々しさの鳴りやまない屋上への階段目掛け一人の中年が駆けてくる。

カシュカシュッ――。
微かなコインの擦り合わせ音が、逼迫した事態の窮場を相方に告げる。
『ディアナ、早くスカートを履け。誰かが階段を上がってくるぞッ』
「……ぁっ」
スルリ……パチンッ。
髪留めの安全ピンを外すと、ホック代わりに転用してウェストを固定。
「お前らァアッ!」
――ガシャァンッ!
怒鳴り声と共にフェンスが大きく鳴動。屋上に出現する中年太鼓ッ腹。
「ぅげぇっ。また喧しいの来たぁあっ!」
「ぁわわ。し、しも、……下洗先生ェ?」
げんなり顔の雷子に、あんぐり顔の安田。口許を両手で覆うディアナ。
「……ぅゎっ。……ほんとにハゲてるっ」
「だぁれがハゲじゃあ~おどれらぁあ~」
立ち竦む三人の学生を前に、血走った眼を殊更にビキつかせるハゲ洗。
「揃いも揃ってバカの密会かぁあッ!!」
「ち、違うんですぅ~これには訳がぁっ」
「何だ安田ぁッ! どんな訳じゃぁあッ」
ビシィ――ッ。
竹刀で石床を叩きつけ、威嚇しながら、眼鏡男ににじり寄る下洗好三。
「正直にッ、――言うてみんかぃいッ!」
「わっ、ゎゎゎっ。訳ってゆーか……っ」
「おいハゲ。あんま怒鳴ってンとよぉー」
パリッ、バチバチ……。
雷子の総身が黄金色のスパークを纏う。獰猛な双眸がニカッと笑った。
「百万ボルトでビリビリさせちゃうよん」
「はぁあ~? お前は、バカかぁあ~?」
雷子の不敵な宣戦布告に呆れ果てる下洗。――を尻目に黙考する直人。
『……やはりジュピター……。さて……』
透明化したフードの下で直人は様子を窺う。相手の力量を見定めたい。

例の事件に与した権力闘争間の該当者は、すべてが直人の復讐対象者。
即ち――、熾天使、悪魔王、神族、魔族、月や他惑星から来た異星人。
(……守備範囲が少々広いか……)
直人は人間だ。人間の役割は自然環境保護、及び他種族の間引き――。
一人の手には負えない案件も、今は恐らく協力者たるディアナが居る。
彼女を全面的に信用した訳ではないが、裏切る可能性も低いと判じた。
少なくとも、別邸で共に過ごしたあの時間だけは幸せを運んでくれた。
(……楓は、怒ってたっけな……)
一時停戦を結んだディアナの眼の届かぬ範囲での攻撃なら証拠不十分。
だが、今はまだ時期尚早か。狙える時間的猶予は十分。隙あらば――。


