Excalibur



 パチッ、パチッ――……。
 薪ストーブの前の座椅子に横並び、久方ぶりの客人と共に摂る食事。
 不思議な客人は、速攻で乾いた下着を着用しての簡素な下着姿――。
「んじゃ、いっただきまーす♪」
 出来上がった寄せ鍋から漂う香しい薫りに、ディアナは気色満面だ。
「はぐ。ん。ダシ効いてるねっ」
「……」
 えのき、春菊、レタス、……野菜を下拵え、ダシは昆布から取った。
 渓流で釣った川魚は、良いタンパク源になる。米は買い置きの玄米。
「はぐはぐっ。美~味しいっ♪」
 美味そうに寄せ鍋をつつくディアナの傍で陰鬱そうに項垂れる直人。
「ねー、キミ。食べないのぉ?」
「……食欲が、ないんだよ……」
 何時の間にか君呼ばわりされているが、今は構ってる気分ではない。
 楓の幻影が瞼から離れない。順調に育ってれば、今頃はきっと――。
 護ると誓った。旅行に行くと約束もした。だが、……叶わなかった。



「なら仕方ないねー。はぐっ♪」
「……後、俺の名は直人だ……」
 キミ呼ばわりは癪に障る。無礼のない様、確り名前で呼んで欲しい。
「ほーい♪ 直人っちだねっ!」
 悪びれもせずにんまりと笑うディアナ。悔しいが、本気で怒れない。 
 愛嬌のせいか、ついこちらの表情が緩んでしまう。視線を逸らした。
「直人っちの分も、貰うよん♪」
「……あぁ……勝手に食え……」
 はぐっ――。
 直人の心情を特に気にする事もなく、ディアナが鍋の具材を頬張る。
 はぐはぐっ。項垂れる直人にお構いなく食事がみるみる減ってゆく。
「ふぅ。ご馳走様でしたぁーっ」
 ふと見ると、二人分の鍋がすっからかんになっていた。凄い食欲だ。
「さ、寝よっ。明日も学校だっ」
「……あぁ、……そうだな……」
 大きく伸びをするディアナを気に掛けるでもなく、小さく呟く直人。
 毎日が後悔の連続だった。唯一鍛錬の時間だけは総てを忘れられた。
「……俺も、準備しないと……」
 近日中に、青凛学園への転入届を提出する予定だった事を思い出す。



 神力を持った連中が自然と青凛学園に集ってくるのを実感していた。
「……妹が、居たンだ、が……」
「確か妹さんが居たんだよね?」
「……え?」
 声が重なった。驚いて横を見ると、ディアナの青い眼が笑っていた。
「キミの顔にそう書いてあるっ」
「……おい、ふざけるなよ……」
 あははと屈託なく笑うディアナに、直人は苛立った眼差しを向ける。
「それに。俺の名は木崎直人だって言っているだろ?」
「あ、御免。怒らせるつもりはなかったんだけどぉー」
「丁度、今のあんたみたいな年頃だよ。生きてればね」
 素っ気ない口調で一言だけ吐き捨て、直人はフイと視線を逸らした。
「そーなんだ……。変な事聞いちゃって、御免ねっ?」
「……いいよ……。別に……。気にしてないから……」
 ――ガタンッ。
 座椅子から立ち上がると、直人は鍋を手に取りキッチンへと向かう。
「洗面所だ。歯ブラシとドライヤーが置いてあるから」
「ん。ありがとっ。キミってさ、けっこう優しーね♪」
 ガタン。パタパタ――……。
 にこっと微笑うと、ディアナは立ち上がって洗面台へと姿を消した。
(……何なんだ、アイツは……)
 ジャァ――……。
 洗い物をしながら、内心毒づく直人。一緒に居るとペースが乱れる。



 が、満更でもなかった。楓との過去を、僅かでも想起させてくれる。
 共に過ごした一時を、感情を、ディアナは呼び覚ましてくれる――。
「――痛ッ」
 パリンッ! 陶器製の食器をうっかり割ってしまい、指先が切れる。
 不吉な予感がした。水に滲んだ血が不気味な朱の模様を象ってゆく。
「……」
 ジャァ――……。
 空耳か? 水の流れる音に交じり幽玄の様な声が直人に囁きかける。
『お兄様、……逃げてっ……』
「…………――楓…………?」
 はっと洗面台に眼を向ける直人。普段感じた事のない怖気を感じた。
 恐怖? 有り得ない。墓前で誓ったあの日以降、鍛錬は続けてきた。
「ッ、……しっかりしろ……」
 正気を保つべく頭をブンブン真横に振り、懸命に動揺を鎮める直人。
 我に返る必要がある。楓の、愛する妹の代わりなど他に居ない――。