Excalibur



 後ろを振り返る直人。女子学生の姿が見える。付いてきている様だ。
「……」
 ザッ――。
 振りきるべく足を速める。並の人間なら追い縋れないだろう歩速だ。
 繁華街を抜け、街外れのタクシー乗り場まで相当な距離を踏破した。
「……?」
 肩越しに見返り、瞠目する直人。追従する女子生徒を振り切れない。
 速い――。要するに直人とほぼ同じ速度でついてきている事になる。
「……」
 ――ザッ。
 足を止め女子に向き直った。どういう算段なのか意図を確かめたい。
「何だ。……俺にまだ何か用があるのか?」
「あのぉ。お礼とか、まだ言ってなくてぇ」
 ぺこ――っ。
 息もきらさず、お辞儀する女子学生。只者でない事は明らかだった。
 深層に住む地底人は、地表の高重力に不慣れで体力がない事が多い。
「お礼? そンなもの、俺には必要がない」
「でも、私はちゃんとお礼がしたいんです」
 一抹の違和感を抱きながら、女子学生の容貌を慎重に吟味する直人。
 青髪のツーテール。丈の短い青凛学園の制服。青い瞳、……青い瞳?



 直人の知る限り地底は人工太陽の為、虹彩の退色は不思議ではない。
「……お礼は、いいから。もう家に帰れよ」
「そのぉ、帰る場所が、……なくって……」
 悪びれもせず平然と援助を求める女子学生。その図々しさに、絶句。
「――は?」
 地底に帰ればいいだろ? その言葉は一旦、呑み込む。時期尚早だ。
 未だ不明確な点が散見される。まだ地底人と確定出来た訳ではない。
「それで、泊まる場所とか探してたら……」
「……半グレ連中に囲まれたってか……?」
 学生服を着込み、身嗜みも確りしていて、住居がないは無理がある。
 弁明にしか聞こえないが、……住処に困っている者を見過ごせない。
「俺の家はここから遠いが、……来るか?」
「えっ、本当ですか? わぁ、嬉しいっ!」
 クールな美貌が満面の笑みを象った。女子学生が喜びを弾けさせる。
「私、ディアナって言うの。宜しくねっ!」
「……直人だ。仮の住処は御巣鷹山にある」
「仮の……住処? 本当の家じゃないの?」
「まぁ訳ありでね。そこから離れられない」
「……ふーん……。大変なんですねぇ……」
 まるで他人事の様な能天気な物言いだが、そこは特に気にならない。 
「タクシーで二時間はかかる。窮屈だぞ?」
「あ、はい。乗り物は慣れているので……」
 慇懃にお辞儀をするディアナ。物腰はソフトで上品かつ嫌味がない。
 ただ、間延びした喋り方から、箱入り娘の様な天然さを感じさせる。



 ザァァァァ――……。
 殺風景な片田舎の駅前タクシー乗降口。付近の商店街は廃れていた。
 往時は盛況を呈していただろう大通りも閑散としており人気はない。
「よぉ直やん。珍しいねェ彼女連れかい?」
 プップゥゥ――……。
 クラクションを鳴らしながら、運転席の窓から初老の男が顔を出す。 
 人脈の少ない直人ではあるが、地元民との繋がりは大事にしていた。
「いや、……出会ってまだほんの一時間だ」
「はーい。彼女のディアナと言いますっ!」
 後部座席に横並びに座り込むと、ディアナは快活に声を張り上げた。
「美人さんじゃねェか。色男は辛いねェ?」
「阿諛はいい。……とっとと車を出せ……」
 バタムッ、ブロロロロ――……。
 仏頂面の直人と上機嫌のディアナを乗せた車が、夜道を走り出した。