
ガォンッ! ガロロロ……ッ。
真っ白な靄を裂き、夜のハイウェイをカッ飛ばす黒塗りのハーレー。
立ち寄ったサービスエリアで確認した時刻は既に十時を回っていた。
「……ん?」
コォォォオオオオ――……ッ。
流れる景色。輝線の飛沫を散らせる視界の先に紅い発光体が見える。
(……?)
フィン――……。
まるで虚空を自由自在に飛び回るかの様な動き。鳥や蝙蝠とは違う。
「……ンだよッ」
キュルルル、――ガォンッ!!
アクセルを全開にエンジンを吹かす。バイクの速度が上がってゆく。
カァァァァアアア――――ッ。
高速で流れ過ぎる夜景が流線型の光芒を象る。まるで走馬灯の様だ。
超高速で奔り抜ける深夜の高速道路は、人生の縮図を彷彿とさせる。
(……?)
気付けば、つい先程まで宙空に浮かんでいた発光体の姿は見えない。
どうも追っ手は撒いた様だ。心の中で小さく安堵の息を吐くジュン。

オォオォオ――……。
商業施設が軒を連ねる繁華街の裏通りにひっそり佇むオフィスビル。
戦後の赤線地区を改良し、近年目覚ましい経済成長を遂げた界隈だ。
「不正アクセスのエラーが出てンぞォ、直ぐに点検しろォッ」
「えぇい全店閉鎖だッ! ウチの系列、情報駄々洩れだぞ!」
「トイレ掃除もいーが、セキュリティ対策も確りやっとけッ」
ざわ、ざわ……。
動作不具合でざわつくオフィスカフェから一人の男が退店してゆく。
(……)
防犯システムを部分的にショートさせ、ハックした店内ネット回線。
そこから遠隔操作ドローンを飛ばして追跡したが、深追いは止めた。
(ッ、……監視されているのか?)
舌打ちする直人。標的の青凛校生はすべてが隙だらけで拍子抜けだ。
学校をはじめ、帰宅ルート、居住地、個人情報、総てが全開放――。
わざとやっているとしか思えない程、無防備かつ己の保身に無頓着。

が、――攻撃を躊躇わせる何か、見えない違和感が付き纏っていた。
(……誰だ、俺を見張ってる奴は)
場に居合わせない『誰か』の気配は特にジュンを狙う時に強くなる。
サンダー襲撃時には特に感じる事のなかった危機感にも似た緊迫感。
(……原因が、理解るまでは……)
気が触れたと見る向きもあろうが、直人は自己分析には長けている。
コンディションやメンタルの不調等は自身が一番良く理解していた。
その上で異常を感知するという事は、――己の直感は大抵、正しい。
(迂闊に動くと命取り、……だな)
ここは一旦、ターゲットを他に移し替える事に、躊躇いはなかった。
(楓との約束、まだだもんな……)
利己的と思われようが墓前で立てた誓いを遂行する迄は終われない。

(新たな標的も、現れたしな……)
つぎの標的は既に決まっていた。青凛学園に加わった新たな転入生。
目下、目立った神霊力を発揮してはいないが、引っ掛かる節がある。
偵察用の蜂型ドローンで確認した折、身体的な特徴を数点見つけた。
(……『G=W/Ⅿ』 W(重量)、Ⅿ(質量)……)
並の人間より若干、長い背丈と伸びた手足。美しいプロポーション。
トップモデル級の特徴的な容姿から低重力の地底人だと憶測出来る。
学園で早速人気者になれたのも納得。周囲が放っておかないだろう。
(天空、雷子、か。……容易だな)
通名だろうが少し安直過ぎる。直人が弾いた女の素性はジュピター。
今夜はジュンの追跡に労した為、奇襲を掛けるなら明日以降となる。
属性は雷だろうがパワーは桁違いだろう。直接対決は控えたい所だ。
(遠隔ドローンで狙うか、……AI機器干渉でもイケそうだが……)
過去の経験から特にネット干渉系が万能かつ有効な事は解っている。
試行錯誤の最中に失敗率を下げてゆく。その為には諜報力が必須だ。
諜報力如何で物事の勝敗が決する事態を膨大な歴史から学んでいた。

きゃぁああ――……。帰路の途中で女性と思しき叫び声が聞こえた。
人通りの疎らなやや辺鄙な界隈で、柄の悪そうな集団が屯している。
チンピラ連中の輪の中で、青い髪のツーテールの女子が蹲っている。
学生服の柄から、青凛学園と解る。だが、スカートの丈が短すぎる。
(……強姦か?)
普段は関わる事を避けるのだが、この時ばかりは気が滅入っていた。
ジュンの始末を寸前で躊躇った自分への苛立ちか、自己嫌悪か――。

ザッ――……。
集団の前でやおら足を止める直人。青いフードに隠れた双眸が光る。
「おい、……何やってンだ、お前ら」
「あーーー? ンだテメェはよおッ」
「おおッ? どったの坊っちゃぁん」
バ――ッ。早速、柄の悪そうなチンピラ集団に周りを囲まれる直人。
「……いきり立つねェ」
「あ? 偉そうな口聞けンのもなぁ」
「――ッとォ、今の内だけだぜぇッ」
ヒュ、ボッ――。
チンピラ左右同時からのコンビネーション挟撃が敢え無く空を切る。
――ドゴンッ!
互いのパンチが直人の残像を切り裂いて、お互いの顔面を痛打した。
「ぐぁッ!」
「ぁ痛でッ」
ダァンッ! 尻餅をついたチンピラ二人が、そそくさと逃げてゆく。
「ンの野郎ォお」
「……チッ……」
図体の一際デカい筋肉モンスターが、直人の前に立ちはだかる――。
――ズゥンッ! かに見えた直後、口から血泡を吹いて倒れ込んだ。
シュゥゥ――……。仰向けに沈み込んだ巨体から硝煙が上っている。
「……下らねェ……」
「……ぁ、貴方は?」
「――ッ!?」
青い髪のツーテール女子を間近で見た瞬間、うっと顔を顰める直人。
助けた女子学生は、モデル級のプロポーションを誇る地底人だった。



