カミュの闊達な眼を真っ直ぐ見据え、ジュンは決意を口にする。
「今から向かう。直ちに準備を始めて欲しい」
「って、ええーーっ!?」
 勇みたつジュンの傍らで、金髪の少女は素っ頓狂な声を上げた。
「すぐには無理無理っ!」
 オーバーリアクションで拒否する美貌が、困り顔に変じている。
「……なぜ?」
「だ、だって朝礼もまだだし、家臣の朝食だってぇ~……」
「……朝礼?」
「もぅ。どこまで忘れてるの? 朝の挨拶のことっ」
「……」
 今の自分が、大病の王子に成り代わりの身である事を思い出す。
 男の約束だ。国の安定の為、家臣に安心感を与える必要がある。
 ”元気になった姿”、をアピールする必要があるのだろう――。
「家来達もみーんな、義兄さまのこと心配して待ってたんだよ?」
「……そうだな」
 カミュの憂えげな青い視線が、逡巡するジュンの胸に刺さった。
「……分かった。では、出立の準備は、朝礼が済んだ後、で――」
 ぎゅるるる……腹の虫が鳴る音がした。カミュが頬を赤らめる。
「ほらぁ義兄さま。ペコペコじゃない?」
「……そう……だっけか」
 自分の腹は鳴ってない――だが、カミュを庇う事も必要だろう。
 躊躇う視線を落とすジュン。間伐入れずカミュが笑顔で促した。
「遠征の前に、先ずは腹ごしらえしなきゃ、――ねっ」
 どうやら遠征の約束は守ってくれる様だ。安堵の吐息を漏らす。
「……カミュ?」
「ん。何よ?」
「いや……何でもない」
「ぶーっ。なにそれー。どーゆー意味ー?」
 不満気に唇を尖らせるカミュ。あはは。二人の笑い声が響いた。