Excalibur

 ――ドガァッ!
 大理石の門柱に背中を強かに叩きつけたガードマンが、崩れ落ちる。
「ンの野郎ぉッ! コイツを引っ捕らえろおッ!」
「このアバズレをッ問答無用でしょっ引けぇいッ」
 ゴゴゴゴ――……。
 一際、隆々の巨漢を誇る筋肉男が、謎の少女の前に立ちはだかった。
「このワシに任せとけぇエッ! 女衒のモーヴにィッ」
「はん、筋肉貴族か。外見って期待出来ないよねェ♪」
「な、……――おわぁああッ!?」
 ヴンーー、ドガァアンッ!
 謎の揚力で浮きあがった巨体が、支柱の一角に叩きつけられて爆散。
「ば、化け物だぁあッ!」
「今直ぐ逃げろぉおッ!」
 わぁあああ――……。
 エレガントで華やかな舞踏パーティーが恐怖の館へと変貌を遂げた。



 ――ガタンッ。
 丈長の伝統的なチュニック、マントを羽織った男が鷹揚に席を立つ。
「見えるかな、リチャード。多分アイツが熾天使で間違いない」
「馬鹿な……? あの何の変哲もない小柄な少女が、……か?」
 サーコートに身を包んだ十字軍の一人、リチャードの相貌が強張る。
「多分、だがな。潜在的な神霊力は皆目見当もつかないが……」
 ――チャキ。
 言葉を濁し、腰提げの鞘からスティレットの柄を掴み取るアドラー。
「ガードマン連中如きでは、メルクマールにすらならんだろう」
「馬鹿な。……俺たちが返り討ちに遭うリスクはどーなるッ?」
「問題ない。その時はジェラルド様に御一報がゆくだろう……」
 わぁぁああ――……。
 混迷を極める場内。飛び散る血飛沫。逃げ惑う避難者が出口に集う。
「えぇいッ! 秘密のパーティーはお開きだッ!」
「二次会希望の方はユーボートで別会場までッ!」
 わぁぁああ――、ドォォンッ!
 こぞって逃げ出す参加客が密集する正門出入口で、爆発音が轟いた。
「……義姉さんッ?」
 ――ボゥッ!
 爆音を聞きつけ、熱風蒸気を纏ったまま、ジャッカルが舞い戻った。
「義姉さ――ッ」
「しーっ。離脱するぞジャッカル」
 バッ――。
 支柱の影から伸び出たレディの手に口を塞がれ、黙然と相槌を打つ。



 ドォン! チュドォンッ! 
 爆発の煽りを受け混迷に陥る宮殿出入口。非常口も相次ぎ爆発する。
 ぎゃぁあああ――……。ドシュ、ザンッ!
 出口に殺到したセレブ族が片っ端から爆散、或いは斬り捨てられる。
「爆発ッ、――だぁぁあッ!」
「誰かが私達を斬っている!」
「オウマイガッ。お助けをッ」
 わぁぁあああ――……。
 飛び交う怒号。喧噪。パニック化した会場は混沌たる状況を呈する。

「……」
 ――スラリ。
 くゆる硝煙の中、鞘から抜いた短刀を手にアドラーは撤退を決めた。
「状況が変わった。脱出するぞリチャード」
「……ぅ、ぐッ!?」
 ボタタ――……。
 口から血泡を吹くリチャード。抉られた胸部から鮮血が噴き飛沫く。
「……――なッ!?」
 ザシュッ――。
 二分されたリチャードの上半身が、あらぬ方角へと吹き飛んでゆく。
「おい、リチャードッ!?」
「っとぉ。ぁんた等はここで全滅っ♪」
 ――ヴンッ。
 瞠目する眼の前に、残忍な笑みを湛えた謎の少女が幻の様に現れた。
「ッ!? おい、待……ッ」
「一閃」
 ザンッ! 呼び掛けたアドラーの視界が跳ね、刹那の虚空を泳いだ。



 ゴォォオオ――……。
 炎上する宮殿跡を、闇夜に紛れるようにして駆け奔る二人の逃亡者。
「……何者なンだ?」
「さぁな。私の探知に掛からなかった。人間か或いは地底人だろう」
 タタタタタ――……。
 並走しながらの会話。他にも脱出者が居たか確かめる術は今はない。
「人間じゃねーなァ。何つーかなぁ、幽霊みてェな野郎だったぜ?」
「無理があるな。幽霊だとしたら我々に物理干渉出来ないだろう?」
 レディが横目でたしなめる。
「私も遠目でちらと見たが、……まぁ、実在はしていた、……ぞ?」
「とりま一旦アジトだ。奴が何をトチ狂ったンか理由が解ンねーぜ」
「ハン。……どうせお前がうっかり相手を怒らせたか何かだろうが」
「……ッ……」
 義姉の言及に、心当たりがないとは言えず、肝を冷やすジャッカル。