Excalibur

 ヴゥ――……ン。
 靄の様に霧がかっていた少女の姿が、明瞭なるその像を結んでゆく。
「いや、……俺は……ッ」
「んだよ度胸なしかよ!」
 啖呵を切られて粛々と引き下がる訳にもいくまい――。腹を括った。
「ピッツィカでいーか?」
「ピチカートって、何?」
 カミュに酷似の少女が問う。イタリーの伝統舞踊を知らないらしい。
「フォークダンスだ。フラメンコとか神楽とかあるよな?」
「フォーク? スプーンとかのアレ? あ、違ったら御免」
「……ッ?」
 眼をパチパチと瞬かせるジャッカル。何処まで天然なのか解らない。
 ただ、――何となくではあるが、馴染みある一人の男を想起させた。
「手を触れたくはないンでな。型だけになるが、いーか?」
「……んー。それって何かさ、ぁたしの事敬遠してない?」
「いいや、逆だよ。敬意を表してるンだよ。マドモアゼル」
「……敬意……。……マドモアゼル……?」
 言葉を理解したか、訝しげな少女の表情が、心なしか明るくなった。

 ――スゥ。
 批難をサラリと躱しつつ、少女に触れない様に伸ばした両手を翳す。
「ステップは分かるか? ホップとかサイドとかマイムマイム」
「……ステップ……」
「……ッ?」
 ――ヴン……。
 刹那、視界がブレた気がした。周囲を見渡すが際立った変化はない。



 時間がポンと切り抜かれた感覚があったが、……気のせいだろうか。
「……ぁン?」
 一点だけ、黒髪の少女が眼を引いた。先程までは居なかった少女だ。
 パーティー会場に似合わない緑色の学制服を着て腕組みをしている。



「大体解ったよ。退屈な踊りだねっ」
「……そう、……かい?」
 にっこり笑う少女を怪訝そうに見据えながら、周囲を一瞥してみる。
「フレイザーさんッ! その怪我、一体誰にッ?」
「……奴だッ! 私はあの男にやられたんだッ!」
 ざわ、ざわ――……。
 喧騒。耳から血を流す鬼面の中年男が、ジャッカルを指差している。
「……不味いな。……嬢ちゃん、踊りはまた今度だッ」
「えーっ!? せっかく楽しみにしてたのにィーっ?」
「その男だァッ! 欧州裁判で裁いてやるぅァアッ!」
 ドドド――ッ。
 何処から現れたか、屈強なガードマン部隊がこちらへ突撃してくる。
「義姉さん、不足の事態だ。悪ィが離脱させて貰うぜッ」
 ガー。インカム通信からレディの明瞭な声がジャッカルへ指示する。
『解った。現時刻を以て交代だ。お前が外庭を見張れッ』
「――了解。カミュに似た変な女がいる。気ィつけろよ」
 シュ、――ボッ。
 熱風蒸気を纏うなり、ジャッカルは人混みの中に紛れ身を眩ませる。
『変な女、……だと? 把握した。後は私に任せておけ』
 ス――ッ。
 非常扉からロングドレスを纏ったブロンド美女が身を滑り込ませる。



「ふーん。あ、そぉ。逃げるンだぁ。ジャッカルは臆病さんだね~」
 ザザァ――……。
 残念そうに両肩を竦める少女を、駆けつけたガードマンが取り囲む。
「御用だ御用ッ! 奴のお仲間だよな? 神妙にお縄につけいッ!」
「フレイザーさんのお耳の慰謝料だ! 示談金でもオーケイだぞッ」
「バッカみたい。……ぁたしほんとは無関係なンだけどなぁ~……」
 包囲網を敷く男衆を泰然と見渡し、少女はニヤけた微笑を浮かべる。
「んま、トトも追ってきちゃったし。この場は一旦、撤退かなぁ♪」
 キィイイ――……。
 にんまり微笑う少女の手中で、粒子が集まり、光の剣を象ってゆく。