
ガヤガヤ――……。
ビザンティン様式を想起させる大宮殿で社交会が執り行われていた。
広い客間で着飾った富裕層と思しき面々がディナーを愉しんでいる。
「はっはっは」
「ほっほっほ」
カチャカチャ――……。
上品な笑い声をあげ、フォークやスプーンの食器音を奏でる出席者。
フォーマルパーティーへの参加者は一般的にドレスコードが必須だ。
タキシードスーツ、ドレス。が、仮装パーティはこの限りではない。
「来年度に企画予定中のこの案件なのだが、……」
「当社のビジネスに是非出資して貰おうと、……」
「貴女のが余程アカデミー映えした演技してるわ」
「レッドカーペット歩くには誰と寝ればいいの?」
ざわ、ざわ――……。
お洒落な会話がバラエティ豊かな料理に艶やかな華やかさを添える。
多彩なヴェネツィアンマスクで顔を覆い隠した仮面社交パーティー。
表向きはビジネス取引、資本や資金提供を呼び掛ける健全な社交場。
一方で、闇取引や麻薬売買など犯罪シンジケートの裏の側面を担う。

♪。明りが漏れる宮殿の一室から、伝統的な民謡音楽が流れて来る。
ギィ――……。豪奢な扉の隙間が開き、奥から礼服を来た男が覗く。
中の様子を一瞥し、気怠そうな仕草でボサボサの黒髪を引っ掻いた。
「……潜入するぞ、義姉さん」
『ピ、ガー、……』
インカム無線から届いていたノイズ音が、明瞭な女の声に変化する。
『くれぐれも手荒な真似は控えろ。お前の得意の諜報だけに徹しろ』
「りょーかい。ま、危なくなったら助っ人頼むぜ。例のじゃじゃ馬」
♪。(ムーディな楽器とアップテンポな太鼓の演奏が始まっている)
ジャッカルの視線の先で、恒例の社交舞踏会が繰り広げられていた。
名のある楽団の軽妙な演奏に乗って、タランテラを笑い踊る参列者。
参加者の中に、魔界伯爵として一躍名を挙げたアドラーの姿がある。
「ジェラルドのオッサン来てねーぞ。魔人連中はチラホラ居るなぁ」
ふぁ~ぁあ――……。
社交ダンスに浸るマスク姿の富裕層を眼前に、欠伸するジャッカル。
「だりィ。いっそコイツ等この場で一掃しちまうってのはどーよ?」
ピ、ガー。インカムからレディが手厳しく応える。
『余計な真似はするな。中に熾天使が居るかどうか慎重に確かめろ』
「熾天使、……ねェ。確かジュン意外ヤっちまっていーんだよな?」
『駄目だ。我々の重要な交渉手段としてヴァリウス令嬢に引き渡す』
「はぁ~。ッたり~なァ……」
令嬢ヴァリウス。ウェルズリー、ジェラルドと比肩する魔の三巨頭。
嘗て旧世界を統べ、猖獗を極めた七大悪魔王の筆頭かつ重鎮的存在。



