
ジャァ――……ッ。
雑多な機器の音が響く中、ゴーグルを外した職人が朗らかに笑った。
「あいよッ、一丁上がりだ。配線治ったよ!」
ゴトンッ。叩き置かれたパーカーに埋設された量子ステルス電源部。
中年男がにこやかに手揉みする中、直人は懐から小切手帳を出した。
「修理代幾らだオッサン。今回は幾ら欲しい?」
「へぇッへッへ。直っちゃん気前良いからァ~」
満面の笑みを作りながら、猫撫で声で手揉みする中年親父、魔戸部。
「ん~っとぉ~。こんくらィ?」
「あぁ、……そンでいーのかい」
シャッ、シャッ――。
男がジェスチュアで示した額面を確認、手慣れた筆跡でサインする。
「欲張りが。……こん位でいーだろ。ンだよ足りねーのかよ」
「えぇ~っ!? 直っちゃん、い、……い、一億もぉお~?」
わぁ~っ――……。
寒空の下、開けっ放しの作業場に、中年男の驚きの悲鳴が上がった。
「馬鹿が。お前がそんくらい欲しいつッたンだろ、この守銭奴」
「で、でもぉお~、にしてもワテかて気後れしてまいますぅん」
裏声を張り上げて尻尾を振る佇まいは、まるでゲイバーのホストだ。
「十日以内に換金急げよ。それ超えるとややこしくなッからよ」
「へぇッへッへ……。解ってまンがな。そこんとこはもぅお~」
眼を光らせる中年が手揉みしながら、申し合わせた様に謝意を示す。
「……じゃ、ありがとな。壊れたらまた頼むよ、……オッサン」
「また来てね直っちゃん、あんまり無理しちゃあ駄目よぉんっ」
「……あぁ……」
――カラン……。
鈴鳴りの音。中年男の声援を背に浴びながら、直人は店を後にする。

ヴゥン――……。立ち上がる内部電源。画面の照明が薄闇を照らす。
立ち寄った漫画喫茶の一室で、直人は早速手慣れた仕事を開始した。
「……」
カタカタ――……。
手頃な企業のサイトにアクセスし、内部コードを専用解読機で突破。
ハックした大企業の機密情報を、地下の闇市場に破格の値段で捌く。
情報の売価は十の桁を上回る相場が闇市場の直近のトレンドである。
「……」
取引先はマフィアや貴族階層を始め大国の産業スパイが関する事も。
アングラサイトの闇のオークションで捌けば大金が容易に手に入る。
が、口座は都度移転の必要があり、逆に身元が割れるリスクを伴う。
「……フッ」
所詮、身元が割れたとて、今の直人には経歴も何も失う物すら無い。
墜落事故を共謀した相手が大国の諜報機関ではない事も解っている。
貴族や王族ですらなかった。背後で手引きしていたのは熾天使――。
「……」
サンダーという男をドローン爆撃によって先日、始末したばかりだ。
が、信憑性が定かではないが、生きているという裏情報を得ている。
一味を確実に屠るまで、直人は止まれない。――楓が浮かばれない。
「……ッ」
楓のみではない。意に添わず生を絶たれた他の乗客の無念の為にも。


