わいわい。早朝時、居城の一室はすっかり賑わっていた。
「んもぉ。ドラゴンも知らないの?」
「……知らない」
 アニメ調の甲高い萌え声がジュンを叱責する。
「魔王の手下、アドルの乗るモンスターじゃんっ!」
「……アドル?」
「以前、襲われた事あるじゃん。赤い鬼神って渾名のキザな男だよっ!」
 頬をぷくっと膨らませながら、不満気にジュンを詰る金髪少女。
「あ……あぁ。そ、そうだったかな?」
 妹(義妹?)に怪しまれぬよう、ジュンは小さく相槌を打った。
 病み上がり設定とはいえ、”すり替わり”がバレる事態だけは避けねば。
「で、……そのアドルって男は……」
「それがねぇー。最後の襲撃以降、まだ来てないんだよねぇ」
 不可解といった面相で小首を捻る金髪少女。ツーテールが可愛く揺れる。
「……?」
 敵も作戦を練っている最中とか? 色んな謀略が脳裏を掠める。
「……ふぅん」 
 埒があかない。より多く知見を得るべく、質問の切り口を少し変えてみた。
「拠点というか……アドルの現在地の目処は?」
「っ! ぅん、いい質問だね」
 金髪少女の青い目が、鋭い煌めきを放った。
「ここより西方、ずぅ……っと遠く離れた砂漠のど真ん中近辺にねぇ……」
 遠い眼差しを虚空に据えたかと思うと、少女はお茶目に笑って舌を出す。
「拠点となる”砂漠の城塞(バークフリー)”があるってもっぱらの噂なんだけどねっ♪」
「砂漠の……城塞」
 はやる気持ちを抑える。もしや愛美はそこに軟禁されているかもしれない。