Excalibur

 ドンッ! デスクを叩き、強面オッサンによるダミ声の詰問が続く。
 救急外来の待合い室の一角で、ジュンは緊急取り調べを受けていた。
「ンなわきゃあるかいッ! 先ず銃刀法違反モンだし、更にやなぁ」
 救急外来に連行された直ぐ後、ジュンは管轄の警部補に尋問された。
 下新井なるこのハゲ面の中年、一目見てジュンに執心を抱いた様だ。
「……あれ、玩具なンすけど」
「あぁ~? 玩具ゃぁ~!?」
 ジュンに反論の暇も与えぬオッサンの厳つい波状攻撃が続いていた。
「そんな事言うとるンやないんじゃ。わりゃ、ドタマ悪いんかッ!」
 ドンッ! デスクを叩き、髭面の強面オッサンが、ダミ声で詰める。
 薄明かりに藪睨みの眼が煌々と輝き、まるで獲物に餓えた肉食獣だ。
「今時分はなぁ、発砲出来るプラスチック製の玩具とかあンねやッ」
「はぁ、……そースか」
「あぁ~ソースぅう?」
 ぷふぁ~……。タバコと酒臭い息を吹きかけられ顔を顰めるジュン。
「……うぇッ。オッサン酒臭いッスよ……あんまそのタラコ唇……」
「爆取および爆物使用罪、更に傷害罪と器物損壊罪、刑事罰やぞ?」
 ドンッ! デスクを叩くと、ここぞとばかりにダミ声で捲し立てる。
「しゃから今時の若造はアカンねやッ。反省が足りとらんのじゃッ」
「あー。何言ってンのか解ンねンスけど。俺、……怪我人スよね?」
 露骨に不快感を示すジュンの反応がオッサンの嗜虐心を逆撫でした。
「ガキゃあ~。おまー、え~度胸しとるのぉ。見上げたモンじゃあ」
 ぷふぁ~……。酒気帯び様の紅顔を近づけ、大きく息を吐きかける。
「……臭ッせぇえッ」
「臭いッちゅーな!」
 ドンッ! 小熊のトンピー宜しく机をぶっ叩き、顔を近づけて凄む。
「職歴四十年のベテラン警部補、下新井怨三、舐めンなよゴルァア」
「能書きゃいーッて。臭せェんだよ。そンなンだからあんたァ……」
 ドンッとデスクを叩き返すジュン。眼を剥くオッサンに怒鳴り返す。
「――何年たっても警部補止まりなンじゃねーかよッ、ぁあッ!?」
「……うぉッ?」
 ガタタ――……。驚いたオッサンが、思わず椅子を引いて仰け反る。
 怯んだ獲物を睨みつけ様、ジュンは追撃の怒声で追い打ちをかけた。
「何処逃げよーッてンだオッサン! まだ始まったばっかだろがァ」
「るッせぇ! ちィと小便だ。これ以上バカに付き合ってられッか」
 ギィ、――バタムッ。慌ただしく部屋を後にする警部補のオッサン。
 廊下で待機していた若い衆とのやり取り後、……そそくさと消えた。



 黄昏の空に星が瞬いている。病院の一室での取り調べが続いていた。
 ガチャ――。見習い風の若い衆が数人、雪崩れ込んできて取り囲む。
「お前、一体何した。当時の状況をもう一度、詳細に再現してみろ」
「さっき、……学校で襲われたつッたろ? 俺は被害者なんだよッ」
 不遜な態度で取り調べに応じるジュン。面倒事も懲り懲りしていた。
「犯人の目撃情報もない。誰に襲われたんだ! あの爆発は何だ?」
「……だよなぁ……。まぁそーなるよな。悪ィけどもういーわ……」
 カチカチ、……――キュルルッ。
 嘆息一つ。ジュンはズボンのポッケに仕舞っていた端末を操作した。
「おいお前、何してるッ! この期に及んで妙な真似をするなッ!」
「……何もしてねーよ。俺はね? たださ、……相棒はどーかな?」
「ッ!? 仲間がいたのかッ! 全部吐けッ! 自白しろぉおッ!」
 屈強な若い衆に襟首を引っ掴まれ、ガクガクと揺さぶられるジュン。
 オォオオオ――……。バイクの排気音が救急外来に急接近してくる。
「おい、……これ何の音だッ!?」
「馬鹿な……、こんな夜更けに?」
 ガォオンッ! ドッドッドッド――……。
 大音量の空ぶかしが外気に轟いた。カスタムバイクが現着した様だ。
「どぉ~もぉ~ッ♪」
 ガタンッ。椅子から立ち上がると、ジュンは両手をひらひらさせた。
「カスタムハーレーのジュンちゃんでぇ~ッす♪」
「お前なぁ……、――ケーサツ舐めてンのかあッ」
 脱力系キメポーズで朗らかに笑うジュンを、粋った警察が恫喝する。