Excalibur

 ギャァギャァ――。奇怪な鳥の囀りが響き渡る夕暮れ時の山間――。
 鬱蒼と茂った人里離れた山麓に、ぽつんと古い一軒家が建っていた。
「……ただいま……」
 ガラララ……、――ドゥッ。
 ふらつく足取りで玄関に辿り着いた長身痩躯の男が屋内に倒れ込む。
「お兄ちゃん、……今、……帰った、……よ……」
 誰にともなく呼び掛ける。だが無人の家屋は真っ暗闇で返事もない。
「今日の相手は、……強かった。だけど、……仇は、……きっと……」
 電気も灯らない内観。襤褸きれの破れた襖。朽ち果てた木造の家屋。
 そこは嘗て凄惨な民間機の墜落事故が起きたまさにその現場だった。
 放射能が色濃く漂う嘗ての古傷の跡地に、その男は今も住んでいた。
「……おやすみ……」
 玄関先に倒れ込んだまま、疲れ切った瞼を閉じる男の名は木崎直人。
 約十年前に起きた墜落事故の唯一の生存者だ。彼には実の妹が居た。



「……おやすみ、……楓……」
 爆傷を負った青いパーカーは光学処理端末が破壊され煤焼けている。
 身体の各所に負った酷い裂傷・打撲傷・挫傷はジュンに因るモノだ。
「……ぅッ、ぐ……ッ」
 ――カウンターに依る倍加ダメージ……。
 必殺の間際ジュンが放った爆裂無反動砲は男に致命傷を与えていた。
「……夢の中で…………会お、…………」
 ヴォ――……ン。
 気を失った直人の総身を、仄光る青白い謎の磁場が労わる様に覆う。
『……お兄ちゃん……』
 オォオォオ――……。
 周囲から集まった青白い靄が、直人の傍らで蹲る少女の像を象った。
『……おつかれさま。ゆっくりやすんでね……』
「……」
 ドクン……。ドクン――……。
 少女に見守られる中、電気変換された磁力が直人の傷を癒してゆく。