Excalibur

 オォオオォ――……。
 高度の突風が吹きすさぶ屋上で、正面から相対する二体の影――。
「どしたい? 姿を、……見せられねェのか?」
 バチチチ――ッ。スパークを纏う人間の姿が朧気に浮かび上がる。
「あぁ、……そうだな……。どうせお前は……」
「――ッ!?」
 パリッ。シュゥゥゥ――……。
 虚空から襲撃者が姿を現す。幽鬼の様な佇まいに息を呑むジュン。
 青いパーカーを頭から羽織り、紺のカーゴパンツを着崩した男だ。
「量子ステルス。ま、貴様には無用な情報だが」
「貴様、……だと?」
 不躾な物言いに気分を害しながらも、ジュンは努めて冷静を保つ。
「所詮お前は消える身だ。俺の名は知っているな? 木崎直人――」
「……ッ!?」
 ヒュォ――……。
 横殴りの突風が強くなった。下腿に力を込め身体を支えるジュン。
 対面に立つ木崎は、煽られる事もなく平然とその場に佇んでいる。
「直人、お前の目的は何だ? 俺たちの殲滅がお前の望みなのか?」
「……殲滅じゃ温い……。俺の背負ったトラウマ、そっくり返すぜ」
 ザシャッ――。
 脚を開き左拳を正眼に……。パーカーに隠れた眼光が煌きを放つ。
「貴様らの傲岸不遜な悪行の数々は重々承知で粛清に入らせて貰う」
「――ッ?」
 キィン……――パシィッ。
 男の両脚に青白いスパークが凝集してゆく。に見えた矢先だった。
 ドゥ……――ヒュ、ボッ!
 ロケットスタートを切った男の左右の連撃がジュンの両頬を裂く。
「……くッ」
「へぇ……」
 キュキュ……ッ、ヒュ、――ボッ!
 紙一重のスリッピングアウェイを駆使して男の連撃を躱すジュン。
「やるねェ」
「……ッ!」
 シュゥゥゥ――……。
 ゴムが焼ける匂い。熾烈な攻防にジュンの靴足から硝煙が上がる。
「木崎流八極拳……奥義――ッ」
 フ――ッ。深く沈んだ男の身体が一瞬、視界から完全に消失した。
「ぐッ?」
 ドボォオッ! 視認せざる透明タックルを無防備に浴びるジュン。
 直撃を喰らうジュンの鳩尾から内部に浸透する歪な感覚があった。
「……ぉッ!?」
 ゴポォッ。口から血泡を吐くジュンの身体が強い斥力で弾かれる。
「覇ぁッ……――鉄山靠ッ!」
 ドンッ、……――ガッシャァアッ!!
 炸裂音が弾け、吹き飛んだジュンの背中がフェンス柵に直撃した。



 オォオオ――……。無人の屋上、仰向けの身体を痙攣させるジュン。
「――ッ!?」
 バチィ――ッ!
 視界にスパークが散る。内部から四肢の末端へと激痛が駆け巡った。
「……がはッ!」
 ビシャッ! 体内を巡る電撃痛に思わず悶絶、血反吐を吐くジュン。
 内傷――? 身体中の血液が沸騰する様な妙な感覚に危機感を抱く。
「必殺を良く耐えたな……褒めてやるよ」
「……ッ?」
 ザッ、ザッ――。男の慎ましやかな靴音が接近して来るのを感じる。
 直撃の瞬間、神霊力を展開、深部への勁の浸透を間一髪防いでいた。
「……楽にしてやる」
「……ぅ、ぐぅッ?」
 パシィッ……スゥゥ――……。スパークを散らす男の姿が、消えた。
 先程男が言っていた量子ステルス? 黙考する暇も余裕も無かった。
「――……ッ」
 チャキ――。微かに震える手を懐へと差し入れ、銃把を掴むジュン。
 腸が煮え返っていた。神霊力で吹き飛ばさなくては、気が済まない。
「……舐めンじゃねぇぞ」
 ググ――……ガチンッ。撃鉄を起こし、トリガーに指を引っかける。
「……ッ」
 地べたを這いずるのは慣れている。ただ、男の復習動機が理不尽だ。 
 辛い境遇、心痛は理解出来る。だが、無差別殺戮を許せる訳が無い。
「ぉ……――ぉぉおぉおッ」
「……ッ?」
 ――トンッ。鳩尾に、再度の焼ける様な感覚が触れた。瞬間だった。
「……――爆裂無反動砲(パンツァーファウスト)ッ!!」
 カッ、――ドゴォッ!!
 伸ばした銃口から閃光が迸る。屋上の一角でド派手な爆発が起きた。