Excalibur

 ガヤガヤ――……。
 騒々しいクラス内で、特有のダミ声が滔々たる重低音を響かせる。
「で、あるからして、XとYが重なると……」
 カッ、コカカッ――……。
 黒板を叩く様に書きなぐるチョークの音。手慣れた講義の最中だ。
「だりぃーな。おい。メロンパン買って来い」
「売店まだやってねーだろ。どんだけ頭……」
 ざわざわ――……。
 退屈な日常の講義に真面目に耳を傾ける様な生徒は一人も居ない。
 全国最下位を常々争う青凛学園の規律は無きに等しい状態だった。
「うちらさー、この後カラオケ行かな~いっ?」
「おッ、いーねぇ。もちろん俺の驕りでよォっ」
「さぁっすがタクヤん。分ぁかってるぅう~!」
「チっ。こーゆー時だけお調子者なンだよ~ぅ」
 ぺしっと軽くデコピンされて、嬉しがるガングロギャルのミーコ。
 スクールカースト上位のタクヤと集った連中が早速談義に興ずる。
「うぉっほん。で、あるからして? XとYが」
 申し訳程度の咳払いで耳目を集めようと苦肉の試みも空しく頓挫。
「だーっはっはーッ。ンだよその映像ォおッ!」
「るせ。声でけーよバカ。もー見せてやンねー」
「ねぇミーコ。うちらも連れてって~。ダメ?」
 ガヤガヤ――……。
 ほぼ誰も授業をまともには聞いておらず、身を縮こまらせる教諭。
「……で、あるからして。……Xと、Yが……」
 縮こまった身体をぶるッと身震いさせる教諭。頭頂部が邪に光る。
「……お前らなぁ~。分ぁってンじゃろなぁ~」
 わなわなと身を震わせるハゲ洗の怒りは静かなるピークに達した。
「だぁ~っておーっ!」
「くぅ~~マジかッ?」
 ドッ。ぎゃははは――ッ。
 クラスに爆笑の渦が湧き起こった。誰かのギャグが炸裂した様だ。
「……おんどりゃぁあ~……っ」
 ……プシュゥゥ~~……。
 頬の筋肉をピクピク痙攣させ、頭頂部から煙を噴き上げるハゲ洗。
「じゃかぁしいちゅうとるじゃろおが――ぶッ」
 ――バガァンッ! 
 開けっ放しの窓から側頭部を靴底で蹴飛ばされ、出入り口に衝突。



 おぉおぉお――……。
 どよめく教室内に降り立ったのは狼の様な風貌の身軽な男だった。
「っと悪ィな、ハゲ」
 トンッ。軽やかに着地すると、凍り付いたクラスを後に立ち去る。
「な、……ンだ、誰だよ、今の?」
 両膝をカクカクさせながら、メガネ男が憔悴気味に疑義を呈する。
「三組の武士、じゃなかったか?」
「曲芸師かよ。天功真っ青だな?」
「ハゲ洗を一発ケイオーだぜッ!」
「ひゃッほう! 自主勉だぜぇ!」
「タクヤぁあ。連れてってぇえ?」
 どよどよ……――わぁあああ――ッ!
 どよめくクラスは俄に活気づき、気絶したハゲ洗の介抱者もゼロ。
 中肉太鼓ッ腹ハゲが失神した状態で教室は再度の熱狂に包まれた。