Excalibur

 ザシャッ――。
 喧噪の渦中、幽鬼の様に佇みながら校舎を一頻り見渡す男が一人。
「待て待てェいっ!」
「待ってたまるかぁ」
 ギャーギャー。レディの怒声と生徒たちの嘲笑の声がこだまする。
「……フッ」 
 校門前で、青のメンズパーカを着込んだ長身痩躯の男が薄笑った。
「バカ共が。真っ昼間っから賑やかだねェ……」
 カチカチッ――。
 振ったバンドウォッチ内でサーバー連結型インタフェイスが起動。
「諜報の基本は如何に自分をジャムらせるかだ」
 ヴヴ――ヴ……。
 纏っていた男のパーカーが光の波長を相殺し背景に同化してゆく。
「……解り易い神霊力が一つ……。仕留めるか」
 フッ――……。無音で場を後にする男。微かな砂塵が立ち昇った。



 ガシャアンッ!
 無重力宜しく宙空を飛んで来た学習机が学校用ガラスを粉砕する。
 蛻の殻となった教室内は、既に机や椅子等の備品が散乱していた。
「ッと危ねェッ!」
「ちょこまかとっ」
 右手を繰るレディ。フワリ。木製机が再度、宙に浮かび上がった。
 傍目には念動力の様にもみえるが、その実体は重力の干渉能力だ。
「ちょ、待てよッ」
「待たいでかっ!」
 ヴォ――ッ。唸りをあげて迫りくる飛来物を前に息を呑むジュン。
「……ッ」
 一刹那、神霊力の発揮を躊躇ったジュンは、反射的に避けに入る。
 心の片隅に、件のサンダー負傷事件が警告の形で残っていたのだ。



 ヴォ、……ガァンッ!
 炸裂音。突風が前髪を靡かせる眼前で、机が虚空へ舞い上がった。
「……?」
「……ぬ」
 硬直する二人の前に現れたのは、黒髪を後ろに流した不良風の男。
 その姿に見覚えがあった。嘗て共に戦った四神魔のジャッカルだ。
「……義姉さん……」
 ジャリ――ッ。
 ジュンを庇う様に前面に立つと、男は嘆息交じりに髪を引っ掻く。
「落ち着けよ義姉さん。いくら何でもはっちゃけ過ぎだって」
「ジャッカル……いや、神城武士。ペナルティはどうした?」
 はぁと嘆息すると、ジャッカルは髪を掻きながら、悪態を吐いた。
「時代錯誤だっつの。廊下で正座なんか今時誰もやンねーよ」
「は? 時代とか関係ない。私は私。それの何が何処が悪い」
「へいへいあんたは何時も正しーよ。で……ジュンだっけ?」
 ジャッカルが申し合わせた様にウィンクでジュンに目配せをする。
「ッ。……なぁ。話の途中悪ィンだけどさ、片付けよーぜ?」
「むぅッ?」
「……だな」
 ガタン――ッ。ジャッカルが散らかった備品の後片付けを始めた。
「義姉さんも手伝ってくれ。あと白昼堂々のストリーキング」
「ストリーキングが何だッ?」
「へッ、……格好良かったぜ」
「ば、……バカにするなッ!」
 タタタ……。
 頬を赤らめるなり、レディは部屋を出て廊下を走り去っていった。
「久しいなぁジュン。アレから随分苦労したみてーじゃね-か?」
 ポンと肩を手で叩かれ、ジュンは懐かしい感傷が蘇るのを覚えた。
「……ジャッカル。何でお前が学校に? つか今何してンだよ?」
「いんや、俺は義姉さん達の護衛役だ。きな臭ェ噂もあるしな?」
「きな臭い……噂?」
 ガンッ。転がった机の角を軽く蹴飛ばし、小声で囁くジャッカル。
「……神狩りさ。どやってンのか知ンねーがな。知能犯だろーぜ」
「神……狩り? まさかお前、サンダーの件、知ってやがんのか」
「有名さ。一夜にして広まったアレな? 犯人は未だ不明ときた」
 内輪話に興じる二人の周りに、青凛学園の生徒たちが集って来る。