壁面に引っ提げられている、小さな装飾品が眼を惹いた。
「アレ何?」
「えーなぁにー?」
「あの壁に掛かってる奴だ」
「あーアレ? ちょっと待ってねーっ」
たっと身を翻すと、カミュは機敏にそれを取って戻ってくる。
「あの子のこと思い出すねっ」
カミュがあざとい挙措で舌を出す。
「……あの子?」
そう言いかけ、ジュンは息を呑む。カミュの手中で銀に光るペンダント。
そっくりだった。過去、夏祭りの時に愛美に買ってあげたものに相違ない。
「忘れた? 黒髪をほら……こんな風にした」
くすくすっと微笑い、両の金髪のツーテールを束ねてみせる。
「義兄さまってばあの娘にとても優しくて。嫉妬しちゃったぁ……」
拗ねた様にジュンを盗み見るカミュの瞳が、刹那、深い暗褐色に染まった。
「ぁたし……嫉妬深いのはとても良くない事だって、……解ってるんだけど」
妙に気怠げな声音。明るかった声のトーンが不意に暗く……低く変じてゆく。
シャラ……瀟洒な音色を鳴らし、ペンダントをおでこの高さまで持ち上げる。
「ジュンちゃんっ♪」
「――ッ!?」
刹那の戦慄。正確に名前を言いあてられ、ジュンは驚き余ってカミュを眇めた。
「……何だと?」
「ぇ? どったの義兄さま?」
「……今、お前……何て?」
「ぁん? このペンダントの呼び方。あの子がそう呼んでたっしょ?」
「あの子って……ぅッ!」
愛美の姿が過り、はっと口を閉ざすジュン。
十年ほど前、山ではぐれた後、愛美はこの異世界に転生してしまったのだろう。
「……」
ペンダントを懐かしそうに眺め、ジュンは苦笑を浮かべていた。
あのお転婆な妹ときたら、ペンダントによもやこんな愛称を……。
「で……あの子は……今、どこ?」
「はぁ」
カミュがやれやれとばかり嘆息する。
「やっぱりまだ病み上がりでご記憶が……?」
金髪少女の美貌が憂えげに曇った。
「あの子、ここ来てしばらくして、ドラゴンに連れ去られちゃったじゃん」
「え? ……ドラゴン?」
竜の怪物の事とすると……この世界は、怪物たちが跋扈するファンタジーの世界?
「アレ何?」
「えーなぁにー?」
「あの壁に掛かってる奴だ」
「あーアレ? ちょっと待ってねーっ」
たっと身を翻すと、カミュは機敏にそれを取って戻ってくる。
「あの子のこと思い出すねっ」
カミュがあざとい挙措で舌を出す。
「……あの子?」
そう言いかけ、ジュンは息を呑む。カミュの手中で銀に光るペンダント。
そっくりだった。過去、夏祭りの時に愛美に買ってあげたものに相違ない。
「忘れた? 黒髪をほら……こんな風にした」
くすくすっと微笑い、両の金髪のツーテールを束ねてみせる。
「義兄さまってばあの娘にとても優しくて。嫉妬しちゃったぁ……」
拗ねた様にジュンを盗み見るカミュの瞳が、刹那、深い暗褐色に染まった。
「ぁたし……嫉妬深いのはとても良くない事だって、……解ってるんだけど」
妙に気怠げな声音。明るかった声のトーンが不意に暗く……低く変じてゆく。
シャラ……瀟洒な音色を鳴らし、ペンダントをおでこの高さまで持ち上げる。
「ジュンちゃんっ♪」
「――ッ!?」
刹那の戦慄。正確に名前を言いあてられ、ジュンは驚き余ってカミュを眇めた。
「……何だと?」
「ぇ? どったの義兄さま?」
「……今、お前……何て?」
「ぁん? このペンダントの呼び方。あの子がそう呼んでたっしょ?」
「あの子って……ぅッ!」
愛美の姿が過り、はっと口を閉ざすジュン。
十年ほど前、山ではぐれた後、愛美はこの異世界に転生してしまったのだろう。
「……」
ペンダントを懐かしそうに眺め、ジュンは苦笑を浮かべていた。
あのお転婆な妹ときたら、ペンダントによもやこんな愛称を……。
「で……あの子は……今、どこ?」
「はぁ」
カミュがやれやれとばかり嘆息する。
「やっぱりまだ病み上がりでご記憶が……?」
金髪少女の美貌が憂えげに曇った。
「あの子、ここ来てしばらくして、ドラゴンに連れ去られちゃったじゃん」
「え? ……ドラゴン?」
竜の怪物の事とすると……この世界は、怪物たちが跋扈するファンタジーの世界?

